「日本を知る衝撃」を世界へ 「ジャパン・ハウス」3館長に勝算あり


奇跡の復興を果たした日本の精神と技術を伝えたい ──SÃO PAULO 平田アンジェラ多美子館長

ジャパン・ハウス サンパウロは、2017年5月に開館しました。第1号ということで不安はありましたが、お陰さまで毎日たくさんの来館者をお迎えしています。地元サンパウロはもとより、ブラジル全土、さらにはチリやパラグアイといった他の南米の国からわざわざ訪ねてくれる方もいらっしゃって、改めて日本文化への関心の高さに驚かされています。

ブラジルはご存じのとおり日系人が多いことから、元々日本に対する興味、関心も高い親日国でした。かくいう私自身も日系2世なんです。ブラジルは日本以外にも各国からの移民で成り立ってきた歴史から、人種差別もなくオープンマインドな、とてもいい国です。豊富な天然資源にも恵まれていますが、まだまだテクノロジーや文化の面では他の国から学ぶべきことがたくさんあります。そこへきてジャパン・ハウス開設の話があり、まさかとは思いましたが私に館長になってほしいと言われたのです。ブラジル人としてブラジルを愛し、さらにルーツである日本を愛し、何かその橋渡しをしたいと願っていた私にとっては、人生で最も嬉しい贈り物となりました。


館内は三層構成。GFには多目的ホール、1階にはセミナールームとショップ、2階には展示スペースとレストランがある。


昨年11月〜今年3月まで開催された日本人建築家、藤本壮介の巡回展。幻想的な模型コレクションが展示された。


昨年5〜7月に開催された『竹──日本の歴史』展。日用品から食べる筍まで、日本人に欠かせない竹に焦点を当てた。

震災復興に見た、日本の底力

私はこれまで、仕事を通じて100回以上来日しています。実は東日本大震災の時も、日本にいました。被災の様子には大変なショックを受けましたが、それはただの悲劇に終わらなかったのです。私が感動したのは、その後皆で手を取って助け合い、へこたれずに復興へと進んだその精神性の強さと美しさでした。独自の文化、芸術、成熟した都市に豊かな自然。それまで触れてきたものに加えて、復興を可能にする日本ならではの技術と精神を知り、もっと日本のことを知りたいと願うようになったのです。

ただし私から見ると、日本にはせっかく素晴らしいものが数限りなくありながら、それを外国にPRするのが下手なように思えていました。例えば家電製品や自動車など、もの自体は素晴らしいのに、その背景にある思いや文化が見えてこない。ヨーロッパのブランドが強いのは、そうしたアピールが上手で、憧れを掻き立てるからではないでしょうか。

そこでジャパン・ハウス サンパウロでは、日本の優れたものを、その背景や使う文化を紹介するイベントや展示、食などと絡めて、立体的に体験してもらえるように工夫しています。中でも風呂敷は、「包む」という日本ならではの英知とともに高い関心を呼び、1か月分の在庫がたったの1週間で売り切れてしまいました。次は沖縄の芭蕉布など、まだ知られていないものを発信していきたいと思っています。

いまは世界中が、どうもぎくしゃくしていますが、だからこそ武器を突きつけ合うのではなく、ハートで触れ合う体験が何よりも大切だと考えています。便利で美しい日本の知恵と文化をここブラジルで伝えることで、心の豊かさと平和を世界に広げていきたい。それが私の心からの願いなのです。そしていつか、ブラジルの豊富な資源と日本の英知を結びつけて、一緒に何かをつくりだすことができたら、そんな嬉しいことはないでしょう。



平田アンジェラ多美子◎サンパウロ州出身。国際ビジネスコンサルティングを担うスリアナ社を創設。ブラジル産商品のPRや進出企業支援を手がける。ビーチサンダル「ハワイアナス」で世界的ブームを巻き起こした。


JAPAN HOUSE SÃO PAULO◎ジャパン・ハウス サンパウロ。賑やかな目抜き通りであるパウリスタ大通りに面して立ち、現地の人々の憩いの場となっている。建築家、隈 研吾がデザイン監修を手がけた。●Avenida Paulista, 52, São Paulo, Brazil
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文=大野重和

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