AIでうつ病の潜在的リスクを見抜く、発症予測精度は8割超え

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今や、世界全人口の約4%が苦しんでいるとされるうつ病。世界保健機構の調査によれば、その患者数は2015年時点で約3億2200万人にのぼり、05年比で18%増加を記録したとされている。

現在、医療現場では画像診断などの領域で人工知能(AI)が成果を発揮し始めているが、うつ病など精神疾患に対しては、どのような“医療用ツール”になりえるのだろうか。今年はじめ、米国から報告された実験結果からは、その新たな可能性が垣間見えてくる。

米マウントサイナイ病院は、IBMワトソン研究センター、カリフォルニア大学、コロンビア大学メディアカルセンターなどと共同で、うつ病など精神疾患の発症を早期に予測・発見するための「AI言語解析システム」を開発している。研究の目的は、対象となる人物の会話を分析し、統合失調症や偏執症、妄想症など精神疾患を発症する潜在的リスクを割り出すというものだ。
 
同システムは、正常な文脈から逸れる話題や言葉が目立ったり、使用される言語の複雑さが同年齢の人々に比べて落ちるなど、精神疾患の兆候である「無秩序な思考」を発見し、それらを手がかりに発症の可能性を予測していくのだという。

研究者たちは、社会的な問題を起こしたりと、日常からの“逸脱”が目立つ青少年93人を対象に行ったインタビュー内容を分析データとして活用。解析を行った。結果、同システムは、2年以内に精神病を発症する青少年を83%の精度で予測することに成功したという。なお精神的に健康な人と、精神を病んだ人々を区別する実験も行われているが、そちらの精度は72%を記録している。

研究者関係者は、複雑な言語および行動を分析するのにAI技術は有用であり、精神疾患が深刻な水準にいたるのを早期に予防したり、効果的な治療を行っていく上で役立つと期待感を示している。

これまでも、SNSに投稿された写真、もしくは対象となる人々の診療データなどから「うつ病か否か」を判断するという実験は国内外で行われてきた実例がある。しかし、うつ病の兆候を見抜き、予防に役立てるという発想は、さらに一歩進んだものとなるだろう。今後、AIは精神疾患から人間を解放する手段となりうるのか。その発展に期待したい。

文=河鐘基

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