テクノロジー

2018.03.27 14:30

詐欺師起業家セラノスCEOが目をつけた「ヘルステック」の急所


元社員がマスコミに語った記事によると、 ホームズが血液検査に利用していたのは、自社で開発したとされる新技術のものではなく、通常の医療検査用機材だったというものだった。ホームズを支援していたのは大物ぞろいだった。

元国務長官のヘンリー・キッシンジャーなどの著名な人物が取締役に名をつらね、ペイパルの創業者であり、著名な投資家のピーター・ティールも投資していた。しかし、ここで注目しなければならないのは、ヘルスケアに精通している人物がいないということだ。

ホームズの天才的な話術で信用してしまったのだろうか。いや、ホームズ自身も自分の夢で実現したいことと、現在実現可能なことが混同して、資金調達をしてしまったのではないかと思う。詐欺師本人が、嘘を本当だと思い込んでいる例は多い。このような人物に私も何度か遭遇したことがある。

そもそも、なぜバレるような嘘をつくのだろうか?

医薬品・医療機器を研究開発している上司の思い込みが激しく、絶対できるはずだと部下の研究者や技術者に圧力をかけすぎることがあるのだ。そのため、プレッシャーに耐えかねてデータを過大解釈したり、最悪の場合データを捏造してしまうのである。もとは小さな嘘が、その嘘を隠すためにどんどん上塗りされていったのだと思う。

医学生物学系の研究職というのは、いつ出るともわからない成果を目標にある意味単純作業である実験を繰り返さなければならない。地道な仕事であるため、アメリカでは海外からの移民のポスドク(博士研究員)に頼ることが多く、意外かもしれないが、「3Kの職場」と見られている。

よい成果がでなければ、ビザが切れて本国に送還されてしまうというプレッシャーの中で、多くの移民研究者は仕事している。

一方、アカデミアにおける研究者の上司にあたる教授は、年々獲得しにくくなる研究費を獲得しようと必死だ。一流の医学誌に発表できる、夢の成果を必要である。研究費獲得と成果を焦るという組み合わせが、時として負の連鎖を招いてしまう。焦りは良心の呵責を忘れさせ、ありもしないことを「ある」と、世の中に発表してしまうのである。

都合の悪いデータを無視してたまたま出た再現性のないデータをあたかもいつも起こる現象かのように報告したり、画像ソフトで写真を見やすく修正するつもりが、もとの写真とは似ても似つかない別の写真に改ざんしてしまったり……。

研究にはこのような様々なグレーゾーンがあるが、焦りで前のめりになっていると、気がついたときには真っ黒なゾーンにどっぷりと浸かっているのである。

もともと起業家は前人未到の未解決課題を革新的な技術で解決していくものだ。イノベーションを目指した研究開発のほとんどは失敗する。ごく一部が世界を変えるような技術として花開くのである。革新的な技術とはそんなものである。ただ、一部の研究者は自分自身がまるで自己催眠にかかったように、できないことを、「できる」と思い込んでしまうことがある。

例えば、夢中になってサッカーをしていたとしよう。すると、ゲームの最中に怪我をして出血していても、周りに指摘されるまで気がつかないことがある。普通なら出血をするような怪我をした瞬間に痛みを感じて、体は痛みをかばって不自然な動きになるのであるが、集中していたり、強く勝とうと思い込んでいたりすると、気がつかなくなるのだ。これが「自己催眠」である。

出血を指摘されたり、視覚的に血や腫れ上がった患部を見て、激痛が走ったり、痛みで動けなくなったりするのだ。
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文=窪田良

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