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I write about science, technology and the cultural ripples of both.

William R Casey / Shutterstock.com

ストレスを自宅に持ち帰るのは、決して良いことではないと言われてきた。それが正しいことを裏付ける証拠となりそうな研究結果が、先ごろ英科学誌ネイチャー・ニューロサイエンスに発表された。

研究結果によれば、ストレスは脳の特定の構造に変化を生じさせ、その変化が周囲にいる他者の脳にも同様に生じると考えられるという。事実であれば、他人のストレスが私たちに「うつる」ように思える理由を、より明確に説明するものとなるかもしれない。

研究はマウスを使った実験に基づくものであり、当然ながら結果が人間にも当てはまると考えるには注意が必要だ。だが、マウスの脳で変化が認められた神経細胞の構造は人間の脳にも存在し、同様の「情動伝染」が起こっている可能性がある。その点で、この研究結果は興味深いと言えるものだ。

人間が怒りや恐怖、幸福といったさまざまな感情を周囲に「拡散」することは、過去の研究によって確認されている。そして、少なくとも特定の脳領域に関する理論的枠組みからは、なぜこうした現象が起こるのかを説明することができる。

カナダのカルガリー大学カミング校医学部の博士研究員が主導した今回の研究では、まずマウスを数組のペアに分け、それぞれ1匹だけに軽いストレスを与えた。両方のマウスの脳を調べたところ、ストレスを受けたマウスは記憶と情動反応を司る脳領域、海馬の神経細胞に変化が生じていた。その後、ペアを一緒に過ごさせ、ストレスを与えていなかったマウスを調べたところ、その脳にはパートナーと同様の変化が見られるようになっていたという。

研究チームは、この現象を起こしたのはストレスを受けたマウスが放出する「警報フェロモン」だと考えている。こうした状況の発生は、それほど意外なことではない。動物たちは化学物質の放出やその他の形で合図を出し、互いに危険の回避を促している。

今回の研究で新たに得られた知見のうち、人間にも該当する可能性があると言えるのは、ストレスへの反応としてある個体に起きた脳の構造の変化が、別の個体にも同様に発生することが観察された点だ。研究チームのメンバーの一人は、「マウスと人間のストレス回路は非常によく似ている。私たちが調べたマウスの細胞は人間の場合と全く同様に、ストレスへのホルモン応答を制御する機能を果たしていた」と述べている。

また、化学物質による情報伝達は人間同士の間でも起こっている可能性があるという。

「人間のフェロモンや化学物質によるシグナル伝達についての研究は、あまり幅広く行なわれていない。だが、人間が微妙な形で、あるいは恐らく無意識のうちに、感情に関する情報をやりとりしていることを示唆する研究結果が発表されている」

この感情が「うつる」という現象は、少なくともメスのマウスで調べた限りでは、「可逆的」なようだ。これは良いニュースだと言える。ストレスを受けたマウスとペアを組ませ、影響を受けたメスのマウスをその他のマウスの集団に入れたところ、海馬の構造が元に戻っていることが確認された。ストレスによって起きた脳の変化が、集団内での交流によって消失したということだ。ただし、オスのマウスは交流したマウスの数に関わらず、そうした変化は起こらなかった。

上述のとおり、これらの結果が人間にも当てはまると考えるには、かなりの注意が必要だ。だが、研究チームはストレスに対するより効果的な対処法を生み出すためのヒントが、この結果の中にあると考えている。「他人の経験やストレスが私たちを変化させているのかもしれない。その可能性があるのかどうかについて、調べ始めることができそうだ」という。

編集=木内涼子

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