ロンドンから約50キロ南東に広がる森林地帯の中心に、イングランド屈指のゴルフ場、ロイヤル・アッシュダウン・フォレスト・ゴルフ・クラブはある。女王陛下から土地を借りていること、いかなる土地の改造も議会の承認が必要なことから、昔ながらの自然がそのまま残っているコースだ。
元は「アッシュダウン・フォレスト&タンブリッジウェルズ・ゴルフ・クラブ」という名前で、1888年に、現在のオールド・コースの原形がオープンした。コースの素晴らしさと美しさから、93年には当時のビクトリア女王からロイヤルの称号を付与されている。オープン翌年には、ウエスト・コースも開場した。こちらもイギリスの有名なゴルフ雑誌『Golf World』に「6000ヤード以下のコースとしてはイングランド1」と評価されている。
いずれも設計者は不詳ながら、創業者のひとりであるA.T.スコットが深く関与しただろうといわれている。筆者は1日で36ホール回った。一部凡庸なホールもあるにはあるが、全体としては噂に負けないよいコースであった。
開場当初は4900ヤード程度だったオールド・コースだが、随時改良を加えられ、1910〜20年代に距離を延ばして現在とほぼ変わらない6400ヤード程度になった。
オープン初期のメンバーで最も全英オープン選手権のタイトルに近かったのは、労働者階級用のメンバー制度、いわゆる「artisan section」の選手であったエイブ・ミッチェルだ。20年、近隣のロイヤル・チンクエ・ポーツ・ゴルフ・クラブで開催された全英オープンでは、惜しくも決勝でジョージ・ダンカンに敗退してしまったことが語り草になっている。
ロンドンから南西部のリンクスに立ち寄る途中で、ここアッシュダウンに到着した筆者がまず驚いたのは、「ロイヤル」の称号がついているのに、駐車場には理事長やキャプテンなどの専用スペースがないことだった。クラブハウスも少し古くて、アルフレッド・ヒッチコック監督のホラー映画に出てくるような雰囲気であり、「あれ?」と思わされたのが正直な感想である。
1989年に建てられたクラブハウス。レンガ造りの外観は歴史を感じさせる佇まいだ。
しかし、ロンドン郊外のイギリスのカントリーサイドをこれ以上満喫できるゴルフコースはないといっても過言ではない。登りホールが終わって、次のホールのティーグラウンドに立つと、アッシュダウン・フォレストの森と、サセックスの田園風景がそれはそれは美しい。