台湾の「ASUS」は、新型スマホをリリースしてAIを全面的にアピールしたが、記者から突っ込まれて、「我々は広義の意味でAIという言葉を用いている」と答える始末だった。
こうした背景があり、昨秋ファーウェイが「Mate 10 Pro」をリリースしてAIに特化したマーケティングキャンペーンを打った際に、レビュー記事の大半はスマホ自体を高く評価しながらも、AIプロセッサ「NPU(ニューラルネットワーク・プロセッサ・ユニット)」の実力には懐疑的だった。筆者は比較的寛大なレビューをした方だったが、被写体を自動認識する機能については疑問を感じていた。
しかし、Mate 10 Proのリリースから数か月が過ぎ、先月スペインで開催されたモバイルワールドコングレス(MWC)で、筆者はNPUとCPU/GPUとの違いをまざまざと見せつけられた。
MWCの会場の屋外でファーウェイは、ダッシュボードにMate 10 Proを搭載したポルシェ「パナメーラ」を用い自動運転のデモを行った。車体の屋根に取り付けた大型のセンサーとMate 10 Proを連携させ、車の走行中にカメラが捉えた物体をNPUを用い、リアルタイムで認識させたのだ。走行距離は短く、管理された環境下ではあったが、わずか5週間でプログラムを準備したことを考えれば高く評価できるテスト内容だった。
筆者は2度乗車し、いずれも最大時速は50kmほどだったが、Mate 10 Proは道路に設置された実物大の犬やサイクリスト、サッカーボールのパネル等の障害物を正確に認識し、設定された通りの処理を実行した。
道路上の物体を瞬時に認識
この実験は、NPUの強みをよく示している。NPUはクラウドに依存せず端末側で処理を行うことが可能なため、Mate 10 Proは道路上の物体を直ちに認識できるのだ。同じ画像認識ソフトを使えば、NPUがなくても同じ対応ができるものの、処理に掛かる時間は格段に長くなる。
筆者は、MWCでファーウェイのライバルである「LG」の新端末を試してみたが、その体験からもMate 10 Proの凄さを知ることができた。LGがMWCでリリースしたAI搭載の「V30」は、Mate 10 Proのように物体を認識することができる。また、「V30S」は端末側で機械学習を行うことができるが、標準のGPUを使用しているために処理速度が目に見えて遅い。V30Sを花に向けると、花だと認識するまでに3〜4秒を要するが、Mate 10 Proであれば毎回瞬時に認識することができる。
重要でないタスクに数秒長く要しても大して気にならないかもしれないが、AIへの依存度がますます高まる中、将来的には1000分の1秒が大きな差になるだろう。
NPUが日常で不可欠になるのは1〜2年後のことかもしれない。しかし、ASUSのようにAIを誇大に宣伝する企業が多く存在する中で、ファーウェイはその実力と目指す方向性の正しさをMate 10 Proで証明してみせた。