井上:僕も高校生相手に健康を説くときがあって。でも、彼らはピンと来てないんですよね。なぜなら必要に迫られていないから。だから、大学受験前や社会人になる前といったタイミングで訓練をするのがベストなのかなと思います。
小林:そうですね。実際、DeNAさんの新入社員研修に睡眠研修を盛り込んでもらっているんです。以前、DeNA社員向けに睡眠研修を行っていたので、「先輩たちの睡眠の悩みはこうです。皆さんも同じ状況に陥る可能性があるから、それを予防するための方法を先に教えておきます」という内容でした。おかげさまで好評でしたね。
井上:そもそも、生物がなんで寝なきゃいけないのかっていう解は、明確にはまだ分かっていないんですよね?
小林:明確には。睡眠って生物学的に言えば、リスクのある行動でもあるんです。
井上:どういうこと?
小林:たとえば、アフリカの草原で寝ていたらライオンに食われちゃうじゃないですか。寝る理由は分からないけれど、睡眠には、生物学的なリスクを凌駕するほどのメリットがあるってことだと思うんですね。
井上:なるほど。すでに分かっている睡眠の効能もありますよね? 寝ているときに成長ホルモンが分泌されるとか。
小林:そうですね。脳の成長と睡眠の相関はかなり高いと言われています。レム睡眠とノンレム睡眠って聞いたことがあると思いますが、ノンレム・レムに分かれているのって鳥類と哺乳類だけなんです。
井上:睡眠が複雑になっている生物ほど、成長しているということ?
小林:高等生物は、高度な情報処理能力を持っていて、過去の経験や記憶をもとに活動します。天敵に関する情報のように、生命が脅かされるものを学習する習性を持つ。こういう長期記憶は、寝ることによって定着するんです。
井上:それでいうと、現代社会の中でも眠りの意味って大きそうですね。
小林:まさにその通りで、寝ていないとなんとなくイライラしたり、他人の悪いところに目がいってしまったりしますよね。人間は実は、睡眠不足が続くと脳にある扁桃体が過剰反応してしまい、ネガティブな刺激に反応しやすくなってしまうのです。そういう意味においても、社会で生きていく上で人間は寝ないといけないんですよね。