ビジネス

2018.03.29

「眠りは技術」スリープテックから見る人類の可能性

ニューロスペースの小林孝徳CEO(左)、リバネスの井上浄CTO(右)




井上
:極論ですけど、成長ホルモンや記憶、そして適切に忘れる能力みたいな、寝ながら得られるものを、寝ないで出せるようになったらいいよねってなりそう。

小林:合理主義的ですね(笑)。本来人間以外の動物は、寝たいときに寝てるわけですよ。仰るように、限られた時間の中で稼がなきゃいけない私たちは、価値が分かりづらい睡眠というものは真っ先に削りがちです。

井上:なるほど、確かに。でもそしたら、100年後の睡眠ってどうなっていると思います? 僕の想像だと、一気に電源を落とすみたいに入眠できる。もしくは、活動したまま寝た状態を作れるのかなと。

小林:未来はそうなっているかもしれないですね。でもその前に、「睡眠をデザインする」段階があると思います。スリープテックのニューロスペースが目指しているのは、まずそこ。食欲と睡眠欲は同等の生理的欲求です。食は中華やフレンチなど日によって好きなものを選んで楽しんでいるのに、睡眠は悩みを解決するだけでまだ楽しむ段階に至っていない。

井上:睡眠を楽しむ! 確かにそういう捉え方はなかなか出来てないかも。好きな夢を見られるようになったら面白いかも。

小林:なんで眠りに意義がないと感じられてしまうかっていうと、感動がないからなんです。食に感動があるように、眠りも五感と相関させながら感動を残していきたくて。

井上:その世界の実現のためには?

小林:「個人の最適な睡眠を知ること」に尽きます。自分の最良の眠りを知らないことが今の最大の問題点。「何時間眠ればいい」という全員に万能な答えはなくて、幼少期の過ごし方や持っている遺伝子によって、最適な睡眠時間やノンレム・レムの割合って違うものなんです。それが可視化できていないために、夜に強くない体質なのに夜勤のシフトで働いているなんてことも普通に起きています。

井上:個人のベストアンサーを見つける。まさに「ヒューマノーム研究所」が目指している世界です。では、小林さんの考える「睡眠2.0」は、自分に最適な睡眠が分かっている状態?

小林:そうですね。もっと言えば、睡眠を自分でデザインして楽しめる状態を目指しています。今は、睡眠中の心拍や呼吸といったバイタルデータをとって、どういう睡眠のときに日中に最も良いパフォーマンスを残せたのか、相関関係を可視化していきたいと思っています。

井上:日中の活動と睡眠は、表裏一体になっていそうですね。

小林:はい。なので、将来的にはインプラントにして様々なデータをとりたいんです。昼間にどういう活動をしたかとか、どれくらい光を浴びたか、何をいつどれくらい食べたかなど、様々なことが睡眠と深く関係しているので。

井上:テクノロジーの力を借りながら、睡眠をデザインすることは、結果的に健康寿命を延ばすことにもなりますね。

小林:人間は本来、100年生きる力を持っていると思うんです。ただ、適切な睡眠がとれてないために、現在は70〜80歳程度で寿命を迎えている。良い睡眠がとれるようになれば、自然と100歳まで健康に生きることができると思っています。そのためにも、私は、人々が睡眠を楽しんでデザインする時代をつくっていきたいと考えています。

井上:睡眠デザインで、睡眠を楽しむ。非常にワクワクしますね!


小林孝徳◎株式会社ニューロスペース代表取締役社長。1987年⽣まれ、新潟⼤学理学部素粒⼦物理学科卒。自身の睡眠障害の経験を機に、睡眠の悩みを根本的に解決すべく、大学や医療機関と連携し『法人向け睡眠改善プログラム』を開発。学校現場でも『睡眠教育』の普及に取り組み、生きる上で大切な知恵である睡眠を教育で学べるよう多くの機関と連携をし進めている。理想的な睡眠時間は7時間30分。

井上浄◎株式会社リバネス取締役副社長CTO 博士(薬学)/薬剤師。2002年、大学院在学中にリバネスを設立。博士課程を修了後、北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教を経て、2015年より慶應義塾大学特任准教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所の設立、ベンチャー企業の立ち上げ等に携わる。2016年、ポストヘルス時代における人のあり方を思索する『ヒューマノーム研究所』を設立。

構成=ニシブマリエ 写真=藤井さおり

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