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テクノロジー分野のトップ校である上海交通大学には、欧米のテック業界の幹部が講義に訪れることも度々だった。

「在学中に最も衝撃を受けたのは、現在はマイクロソフトのAIチームを統括しているハリー・シャムの講演。コンピュータービジョン分野の権威である彼から、この分野のポテンシャルがいかに巨大であるかを聞いた。さらに、ハリーが信頼する研究チームが香港中文大学にいると聞いて、その後の進路を決定した」

そして、香港中文大学の博士課程に進んだ徐は2008年、マイクロソフトが主催するフェローシップ(企業が優秀な学生に研究費を給付し業績を評価する仕組み)を受賞。マイクロソフトリサーチで当時、主任研究員を務めていた松下康之教授(現大阪大学)からコンピュータービジョンを学んだ。

「世界最先端のAI技術を学ぶ上で、海外の研究者から知識を学ぶのは必須のことだった。大学を卒業後の06年には、当時、画像認識技術のパイオニアとして知られた京都のオムロンにもインターンとして参加した。博士課程時代には米国のMITにも行ったし、英国のケンブリッジにも行った」


センスタイムの技術はリアルタイムで市街地の車両の交通量や車種、歩行者の年齢や性別等を把握するスマートシティ分野でも活用が進んでいる。

尊敬する経営者はレノボ会長

これまでの人生の大半を研究室で過ごしてきた徐にとって、スタートアップ企業の経営は新たなチャレンジと言えるかもしれない。しかし、香港や北京、深圳や京都といった各地のオフィスを飛び回る徐は、彼なりの方法でマネージメント術を身につけている。

「それは、自分ではエアポートマネージメントと呼んでいるやり方。空港では必ず書店に立ち寄り、最新のビジネス書を入手する。アリババのジャック・マーやテンセントのポニー・マーなどの著書はほとんど全部読んでいる。表面的な内容の書籍もあるが、経営術を学ぶ上で参考になるものも多い。テクノロジー分野の経営者で最も尊敬しているのは、中国のテック業界のパイオニアであるレノボの柳伝志会長。また、金庸の武侠小説からも多くの事を学んでいる」

センスタイムの現状の売上の85%以上は中国から。残りが日本やシンガポール、香港からという。センスタイムは2016年に日本法人を設立し京都に本社を構えている。その社長を務めるのが1962年生まれの勞世竑だ。

中国の浙江大学を卒業後、85年に京都大学大学に留学。その後、オムロンで20年にわたり画像認識の技術顧問を担当した。06年に徐が来日した際に指導役を務めたのが彼だった。

「かつてエレクトロニクス分野で世界をリードした日本は今、その地位を追われつつある。そんな中で、最後の砦となるのが自動車産業かもしれない。ホンダとの取り組みを通じ、日本の産業に“人工知能の血液”を提供し、日本のものづくりを支えていきたいんです」

在日歴30年を超える勞は、やわらかな京都弁でそう話した。一方で、CEOの徐は日本のエンジニアたちへの期待を次のように語った。

「かつて京都のオムロンで働いた時に感じたのが、日本の技術者たちが持っている、匠の精神。テクノロジーのディテールをとことん突き詰めていく姿勢に感動した。大学の研究室では、特定の領域で90%の精度をあげれば一定の成果と見なされるが、画像認識を実用レベルにするには99%以上の精度が必要だ。テクノロジーをユーザーに届ける過程のラストワンマイルで、日本人のクラフトマンシップが生きると思っている」

取材・文=上田裕資 写真=Giulia Marchi

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