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「食のパラダイス」をつくる自然栽培農家の私感

自然栽培の畑の様子。肥料を使っていないが、野菜もよく育っており、虫食もない。

農家として独立する前、僕は農業法人で働いていた。その法人自体は2ヘクタールほどの農地しか保有していないが、その100倍以上の面積の契約畑を全国に持つ法人だった。また販売は一般の市場流通(JAなどを通じて市場出荷)を使わず、レストランや小売店、個人への直接販売だったので、全国に販売先があった。

僕は農作業をしてモノづくりをしながら、全国各地の販売先に営業へ廻り、200軒を超える契約農家の2000枚を超える畑の様子を逐一観察。出荷販売調整をしながら、大小の種苗会社にも出入りして新たな品種の商品開発もしている、といった具合だった。

こうして僕はこの期間に、商品開発、生産、卸、販売という上流から下流まで4つの視点を手に入れることができたのだ。

その経験から掴んだ、唐澤的おいしさの方程式がある。それは、「おいしさ=品種 8:栽培法 2」。つまり、おいしさは品種(DNA)と栽培法で決まり、その重要度の比率は8:2ということだ。

おいしいものを作りたい時、品種を間違えると悲惨だ。どれほど苦労して努力して栽培しても、おいしくできない。道産子がいくら環境の良いところで質のいいトレーニングを積んでも、同じトレーニングをしているサラブレッドに速さでは敵わない。品種選びこそが最重要だ。

これはもちろん、「おいしいものを作りたければ」の話。前回のコラムで申し上げたように、一般に売っている種苗はそのほとんどが「味」を目指した品種ではないので、おいしいものをつくりたければ自分で品種を探す必要がある。

なぜ自然栽培を選択したのか

いい品種を選択することができたとして、もう一つの味を決める要素が栽培法だ。僕が自然栽培を知る前、農業法人では、おいしいといわれるものをつくるコツがあった。それは「おいしい品種を選び、有機質肥料を使う」、これだけだ。

農薬は味にはあまり関係ない。肥料には化学肥料と有機質肥料があるが、おいしさを求めるならば断然、有機質肥料だ。油かす、魚粕が主成分の有機質肥料。堆肥でもいいが、未熟だと臭さが移るし、化学肥料に至っては味がのらない。

野菜に限らず一般的にウケる味というのは「濃くて、甘くて、柔らかい」ものだ。これはテレビの食レポを見ていれば大体見当がつく。実際、有機質肥料を入れて栽培すると「(色も味も)濃くて甘い」野菜ができる。当時は「おいしいDNAを持つ品種×有機質肥料」をおいしい野菜の方程式と考え、それに当てはめて新商品の開発を行っていた。

では、そのことを知っている僕がなぜ、有機質肥料を使うのをやめ、肥料を使わない自然栽培を選択したのか。それは14年前に遡る。最初に自然栽培というものに触れたのは、映画にもなった『奇跡のリンゴ』で有名な木村秋則さんに出会った時だった。

関西のある外食産業のバイヤーに「俺よくわかんないから、頼むから唐澤くん一緒にきて」と飛騨高山に連れてかれたのだ。そこにいらしたのが木村さんだった。座学ではなく田畑を巡り、トマトの植え方や桃の木の剪定、田んぼの耕し方など、自然栽培のノウハウを教える場であった。僕は当時、彼が何者であるかも、何をやっている人なのかも知らなかった。

「肥料をやらないで農産物をつくる」と彼は言った。正直、その時は眉唾以外の何物でもないと思い、茨城に帰ったのを覚えている。僕の頭は木村さんの考えを専ら拒否していた。理由は僕の教わってきた今まで培ってきた常識とは相容れないものであったからだ。しかし、僕の頭から離れない一言があった。

「肥料や堆肥をやるから、虫や病気がやってくるんだよ」

それはまったく、聞いたことも、考えたこともない理屈だった。「そんな馬鹿な。そんなのありえない」と最初は思ったのだが、月日が経つにつれ、「ひょっとしてそうだとしたら……」とも考えるようになった。なぜならちょうどその時、僕はそう考えた方がつじつまが合うような経験をしていたからだ。

文・写真=唐澤秀

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