世界のVIPが投資する
11年、INCOを起業。フランスの銀行、保険会社、世界の大企業がファンドに出資する。さらに、レオナルド・ディカプリオ、ヒラリー・クリントン、マーク・ザッカーバーグなど投資パートナーも多い。
「今、社会や環境を変えるために、何かをしなければと思っている人がたくさんいる。この機運は7年前にINCOを作った私でも想像もしなかったほど大きい。ただし、これだけのお金と関心を集めることができるのは、われわれが5%から15%の高いリターンを出しているからです」
驚くべき成績である。さらに投資先の1〜2割が成功すれば合格のVC業界で、INCOが投資したベンチャー企業の85%が成長しているという。同社が行う投資の神髄は何か。
「第一の投資条件は、社会や環境の問題を解決することを目的に作った(作る) 会社であること。既存企業が社会的事業を行っても投資対象ではない。私たちは彼らと伴走します。社会を変えるいいアイデアがある人には、研修から、起業、事業拡大、上場までを一貫して支援します。メンターをつけ、オフィスを提供し、パートナーやクライアントになりそうな企業に繋ぐ。そして、事業拡大に必要な資金を私たちが出資するのです。シードステージの投資額は30万〜100万ユーロ。成長ステージでは500万ユーロまで出資します」
投資例を挙げよう。13年に投資したLeka(レカ)は、自閉症の子供と音や光を使って一緒に遊んで社会性と認知力を高めるためのロボットを開発し、販売している。コミュニケーションの蓄積からAIが病状を分析し、治療に役立てる。
03年に創業され、INCOが11年に投資したETHIQUABLEは、世界的なフェアトレードのリーディング企業だ。チョコレートやコーヒー、紅茶の栽培など、世界2万5000人の農業者の生活を保障する公正価格での取引を行う。100万ユーロを投資し、その価値は10倍になった。
「私たちの行うインパクト投資も、大企業が行うESG投資も、世界の投資額全体から見ればほんの小額にすぎない。しかし確実に増えている。私は年金や預金、保険を出しているすべての投資家の意識を変えたい。私たちから集めた年金が、環境を破壊したり、格差を広げる企業に投資されたら、年金をもらえる年まで地球がもたないかもしれない。そうなれば投資リターンはゼロ。『そんな運用をするな、地球の環境や社会が持続するような活動をしている企業に投資しろ』と言う権利を、私たちはみな、持っているのです」
ニコラ・アザール◎1982年、フランス生まれ。2011年INCOを設立。世界13拠点にインキュベーションオフィスを持つ。パリ市戦略評議会議長として、24年オリンピックパリ招致成功にも貢献。世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーに選出。パリに1500人の政治経済界のリーダーを集め、社会起業家のダボス会議にあたるImpact2を毎年開催する。