ニースで寿司屋をしてみて気づいた、日本文化の力

ニースで始めた寿司屋「SUSHI-K」。九州のPRとして、食器やお酒、内装にも九州の要素を取り入れている。

2017年10月に、ニースで寿司屋を始めました。もともと僕が最初に始めた店「Kei’s Passion」の跡地を改装し、「SUSHI-K」という名でやっています。「SUSHI-K」のKは、僕の名前の頭文字と、寿司屋の大将の小渕隆夫氏の頭文字、また高校の同級生である僕らが、サッカー部として過ごした生まれ故郷の九州のKに由来します。

レストランの秘めた役割

フランスでお店を始めて僕が学んだことは、レストランというのはただ美味しい料理を食べるだけの場所ではなく、観光において重要な役割を持っているということです。観光とは、その地域の産業のPRです。その意味でレストランは、フランスの文化を広める存在でもあるのです。

それは店の内装であり、テーブルの上のコーディネートであり、お皿の上の食材であり、そして料理とともにサービスされるワインであり……。レストランが他の産業のために担っていることは大きく、そうしてフランスをプロモートをしているということを学びました。

そこで、僕らは九州のアンバサダーとして、この寿司屋が九州のPR役として育っていければいいなと思い、有田焼(カマチ陶舗)のお皿を使い、九州の日本酒や焼酎を揃え、内装を含め九州の美術品や芸術作品を飾り、そして九州らしいスタイルのお寿司を、地中海の魚を使って伝えています。



寿司屋に来たお客様が「九州に行ってみたい」「日本に行ってみたい」という気持ちになり、実際に日本に行くお客様が増えることが僕らのゴールのひとつでもあります。

日本の文化が人を謙虚にする?

そんなお寿司屋を始めて気づいたことがいっぱいあります。その最たるものが、日本食を楽しみに来るお客様は、日本文化を通して“ふにゃふにゃになる”ということです。

以前、言語学者の鈴木孝夫先生を通して「タタミゼ効果」という言葉を学んだことがあります。そもそもフランス語には、「日本かぶれにする」「日本贔屓になる」という意味の「タタミゼ(tatamis-er)」という言葉があるのですが、その効果として、海外の人が日本語や日本文化を学ぶと、日本人のように柔らかく謙虚な性格になることが多いというのです。

僕ら日本人がフランス料理のレストランに行くときは、少しカッコつけたく、高揚感を持ちたくなるように、外国のお客様は日本食を食べに行くときはなぜか、少し神秘的なものを求めに来ているのではないかと思います。お箸を使うことなど、日本の文化に触れることに何かインテリジェンスを感じる人もたくさんいます。



たまにお店のカウンターの手伝いをするのですが、その際にはお客様に日本の精神や文化を伝えるようにしています。「いただきます」が、自然界と人間界の境界を超える意味だと知って感動したり、日本は他のアジア諸国とは違ってお箸を横向きに置くと学び、食事の最後までそのマナーでお寿司を楽しんだりしてくれます。お箸を使うのが苦手な人には、素手でお寿司を食べていただいてもらっていますが(苦笑)。
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文=松嶋啓介

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