ゲーム配信サイトのユーザーを激増させた「非伝統的な戦略」

Twitch(ツイッチ)の共同創業者兼CEO エメット・シア


Justin.tvの方向性に迷いが生じていたとき、ゲームプレーを実況する「Justin.tv Gaming」のユーザー数が安定して伸びていることにシアは気づいた。人数こそ少ないものの、全配信の70%近くを占めていた。また、ゲーム会社が実況配信では著作権を強く主張せず、むしろ「宣伝になる」と好意的だった点も大きかった。加えて広告を出稿しやすい。

そして何よりも莫ばく大だいなゲーム市場が魅力的だった。「視聴者とゲーム実況者で成り立つ二面性の市場では、まずは人気の実況者が必要」とシアは考え、世界中のゲーム実況者と話し合い、彼らのニーズを探った。そして、彼らが求めているものが「金」「知名度」「ファンからの支え」であることがわかった。実況者自身がプラットフォームでマネタイズできる仕組みが必要だったのだ。「何よりも『実況者』にフォーカスするべき、と気づけたことがTwitchにとって大きかった」(シア)
 
そこで、人気実況者にはパートナープログラムへの参加を働きかけ、視聴者がサブスクリプション(定額視聴料)やアフィリエイト(広告配信)、ゲーム販売などで収益を上げられるようにした。それを機にユーザー数は急増。実況者に惹かれた視聴者が実況者になるなど、ユーザーがユーザーを呼び込む好循環を生み出している。
 
デジタル・プラットフォームに限らず、多くの企業は自らが儲かる戦略を優先しがちだが、Twitchはユーザーのインセンティブを優先することでコンテンツを増やし、利益が自らに還流される道筋をつけた。プラットフォームの性質を理解した上で、非伝統的な戦略を取ることが効果的な好例である。


エメット・シア◎ゲーム配信サイト「Twitch(ツイッチ)」の共同創業者兼CEO。イェール大学でコンピュータサイエンスを専攻後、大学の友人らと共にオンラインカレンダーサイト「Kiko」や、動画配信サイト「Justin.tv」を共同創業。2011年、Justin.tvでも特に人気の高かったゲーム配信部門をスピンアウトさせ、Twitchを立ち上げた。

ツイッチ◎2011年創業の世界最大のゲーム配信・ソーシャルビデオプラットフォーム。14年にアマゾン傘下に入り、現在はゲーム実況やeSportsのみならず、音楽やクリエイティブアート、プロレス、アニメなどのコンテンツも配信中。毎日1500万人近くのアクティブユーザーと、2万5000人以上のパートナープログラムを抱えている。ピーク時には同時にサイト全体で200万人以上が閲覧する。

文=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 100人の名言」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事