提供:花柳 凜
一緒にステージに立ったアーティストと膝を突き合わせて話すと、彼らは口々に「新しい波を起こしたい」と言います。表現は違っても、皆が往々にニューウェーブを作りたいと口にするのです。彼らは当然、音楽にも古典の歩みがあり、クラシックが生まれ、歴史と共に弾圧や反抗を掻い潜り押し退けてジャズもロックもフォークも多様なジャンルが生み出され今その中に自分達が生きていることも理解しているはず。
それでも彼らは堂々と、「新しい波を起こしたい」と胸を張ります。それまで古典芸能の世界で生きてきた私にとって、それはすごく刺激的で、驚きでした。彼らの話を聞き、一緒にステージに立ち、「そうか。引くばかりでなく押さなくては、波は立たないのだ」と再認識しました。
同世代やもっと若い人たちを舞台に誘うと、「面白そう、行ってみたい!」と言ってくれます。しかしその次には「チケット高いよね?」「どんな服装で行けばいい?」と聞かれるのがほとんどです。日本舞踊は長く歴史を重ねる上で、敷居の高さや難解さがネックと知りながら、それを自分達の価値だと勘違いするようになっていたのです。
敷居が高いと敬遠されること、若い方々の手の出ない金額のチケット代、ゆったりとリラックスして観る事ができないカッチリとした服装が強要されるイメージ、それを払拭するのは大変かもしれませんが、元に戻さなくては、本当に日本から我が国が誇る古典芸能が消え去ってしまうと危惧しています。
ロックバンドとのコラボレーションがきっかけで、私の舞踊公演を観に来て下さるお客様は増え、特に若い女性の方がとても多くなりました。舞台を観たあとは皆さん嬉しそうで、私が舞台の感想を聞くと「髪がキレイ!シャンプーは何を使っていますか?」「舞台の時って、ファンデーションはどんなのを?」と可愛らしい質問ばかりで、内心は(私の静御前はどうでしたか、と聞きたいんだけどなぁ……)と思っています。
でも、その度にじわじわと喜びが込み上げて、私が目指している世界への第一歩を踏み出しているのだと実感します。
引いた波を、もう一度、もう一度。幕張メッセの歓声の波が、古典芸能のニューウェーブへ私を押してくれるのです。