ビジネス

2018.03.18

未来を開拓する「とりあえずやってみる」精神

illustration by Kenji Oguro

そこはもうレッドオーシャンだから、ブルーオーシャンを探せ、というビジネスの常套句がある。しかし、次の波に乗る競争だって、熾烈。それなら、自分たちで作っていけばいい、というのが新コンセプト「すきまオーシャン」だ。震災後、ローカルベンチャーが続々と誕生した石巻から、フロンティアを切り拓くヒントを探る。


いまから遡ること7年ほど前の2011年4月下旬、僕は友人とともにキャンピングカーの荷台に、子どもたちに向けた救援物資を詰めるだけ詰め込んで、人づてに初めて石巻市に入りました。そのときは、ショッキングな光景にただただ圧倒され、無力感とともに僕らができたことといえば、言葉をなくすことくらいしかありませんでした。
 
最大の被害があった場所で震災前と同じく生きていくことを決心した地元の人々と、僕をはじめ東京から来ていた作ることが好きな人々。その偶然的必然ともいうべき出会いの結果、震災から約3カ月後、リセットされてしまった街を震災以前よりよくすることを考え、実行する組織が誕生しました。それが一般社団法人ISHINOMAKI 2.0です。

ライフラインさえままならない、ましてや行政さえあてにできない極限の状態のなか、メンバーが集まり身の回りの道具と材料で「とりあえず作ってみた」のが、「復興バー」という手づくりの小さなバーでした。結果、震災直後の暗闇で何もなかった夜の街に復興の明かりが灯り、世界中のボランティアと地元の人が連日連夜集う貴重な社交場となりました。


天井近くまで浸水した店をDIYで改装し、2011年7月に開店した復興バーは石巻の貴重な社交場

究極の状況での最大の近道は、「とりあえずやってみる」精神によって導かれて自分の体を動かすことであると、実感しました。そういった逆境をともに切り抜けたISHINOMAKI2.0からスピンアウトしていった仲間である「ニュータイプ石巻人」は、世界さえも驚かす小さな産業革命を起こし始めます。
 
その一つが、石巻出身の古山隆幸くん率いる「イトナブ」という組織。「震災から10年後の2021年までに石巻からIT技術者を1000人育てる」という壮大な目標を掲げ、2013年に設立。「IT」×「遊ぶ」×「学ぶ」×「営む」という掛け合わせから生まれた「イトナブ」という名前の通り、小学生や中学生が学校帰りにプログラミングを無償で学べる場を作るほか、地元の工業高校で実践に役立つ授業を持っています。

また、震災翌年から行っているハッカソンは、日本最大級の規模にまで成長。地方ではなかなか起こり得なかったプログラミングスキルを学ぶ場を作ることで、子どもたちの間に新しい職業選択の価値観を生み出しました。既存産業がダメージを受けるなか、ITという新しい産業を生み出してしまったイトナブの存在は、これからの日本のローカルにおける希望の光のような存在です。


2012年から開始された石巻ハッカソン。17年には160名が参加し、東北最大のハッカソンとなった
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文=飯田昭雄

この記事は 「Forbes JAPAN 100人の名言」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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