石巻工房のメンバーによる、仮設住宅の現状のリサーチから生まれた家具「石巻スチール」
そしてもう一つが、元寿司職人の千葉隆博さんが代表を務める石巻工房という、実験的かつ実践的家具工房。千葉さんは震災によって、自身の職場である寿司屋をはじめあらゆるものを一気になくしてしまいました。
しかし、震災直後はプロ顔負けのDIYスキルを生かし、インパクトドライバー片手に街の便利屋さんのごとく、さまざまな修復作業に没頭します。その行動力は、東京の建築家やハーマンミラーという高級家具メーカーの家具職人やデザイナー、経営者との運命的出会いを引き寄せます。
仮設住宅での不自由な生活を改善するため必要とされる家具を一緒に作るワークショップ活動から始まった石巻工房ですが、いまでは東京にショールームを構え、ミラノサローネをはじめ名だたる世界の家具イベントに出展すると同時に、大企業のオフィスにも導入され、NYのハーマンミラー旗艦店においても販売。グッドデザイン賞はじめ、さまざまな賞を獲得するというブランドにまで成長しています。
この2つの例にみるように、逆境の中でさえも最大限に楽しみつつ目の前の課題を一つひとつDIYで解決することを選択したからこそ、新しい発見やアイデアのタネが生まれたといえます、結果、世間でいわれるレッドオーシャンでも、ブルーオーシャンでもない、「すきまオーシャン」とでもいうべき新しいフィールドを開拓してしまいました。
「復興」という特殊な過程だからこそ生まれた新しい視点かもしれませんが、かといってそれは被災地に限らず、日本はもとより全世界においても再現可能なことではないでしょうか。
そして僕たちはいま、ここで取り上げたイトナブの古山くんや石巻工房の千葉さんのような「とりあえずやってみた」人たちを講師に招きながら、その成功の秘訣を探るための講義を開催する、「とりあえずやってみよう大学〜UNIVERSITY OF DON’T THINK, FEEL」という市民大学を立ち上げました。「すきまオーシャン」を開拓した人たちの経験と声には、これから起業したい人やローカルを活性化するためのアイデアとヒントが満ちあふれています。
「DON’T THINK, FEEL」という言葉は、かのブルース・リー先生がよく使われていた言葉です。カンフーという唯一無二の武器を持って、映画界で新しい道を切り拓いていったブルース・リーの精神性は、東北で巻き起こったイノベーションに通ずるものがあり、時に考えるより先に行動する精神は、石巻でのローカルベンチャーズたちの成功から見ての通り、これからの未来により必要となる大切な考え方となっていくでしょう。
皆さんも、もし何かチャレンジしたいようなことがあれば、ぜひ「とりあえずやってみる」ことをお勧めします。そうすれば、あなただけの「すきまオーシャン」が見つかるかもしれません。
飯田昭雄◎電通Bチーム(カルチャー担当)。電通アイソバーにて、ECDとArt Buyerを兼任。ストリート、アートほかサブカルチャー全般に広いネットワークを持つ。ISHINOMAKI2.0には創設から参加。