オープンイノベーションで開かれる新しい扉|出井伸之

クオンタムリープ代表取締役 出井伸之氏

人生は岐路の連続。最良の選択でチャンスを呼び込むためには、自身と深く対話し、自分の中にある幸せの価値観を知ることが重要である。この連載は、岐路に立つ人々に出井伸之が送る人生のナビゲーション。アルファベット順にキーワードを掲げ、出井流のHow toを伝授する。

今回は、O=Open Innovation(オープンイノベーション)について(以下、出井伸之氏談)。


私たちが住んでいる日本は、島国のため、閉じたり開いたりの歴史を繰り返してきた。時にはよい方向にいくこともあるが、ある時にはマイナスに働いたりもする。

現在は、どうだろうか。前にも話したが、日本はABCの国になってしまっている。AはAging Society(エイジングソサエティ)、BはBureaucratic(官僚的)、CはClosed(閉鎖的)だ。

冷蔵庫に入っている日本の企業

私は昔のスピーチで「日本の企業は冷蔵庫に入っている」と表現したことがある。冷蔵庫の中は、各省や公社と密着した企業ごとに整列している。しかし扉が少しだけ開いていて、外に飛び出たソニーやトヨタなどのグローバル企業がいる、そういったイメージだ。

「Not Invented Here」という言葉があるように、日本は、他国や別の組織が発祥であることを理由にそのアイデアや製品を採用せず、結果として既存のものとほぼ同一のものを再開発する「自前主義」の傾向が強い。それは、各省や公社による縦割の社会がまだ色濃く残っているからなのかもしれない。

クローズドな環境に日本があることで、市場が逆転したという事例がある。

半導体露光装置の世界シェアは日本企業の2強だった。しかし、オランダにある半導体露光装置メーカーが台頭し、技術を共有するオープンイノベーションで世界中からアイデアを集めた。それにより自前にこだわりずっとトップの座にあった日本の大企業から、徐々にシェアが移行していったのだ。現在は、半導体露光装置市場の約90%をこのオランダの企業一社が占めているようだ。

オープンイノベーションとは、階層のある組織の中で多くの認証プロセスを踏むより、新しいアイデアを生み出す革新的な環境が外部にあるなら、組織を出てコラボレーションしイノベーションを創出するという動きだ。

産学連携もそのひとつ。例えば研究開発において、日本は多くの企業が自社で研究所を設けてるのに対し、アメリカは大学と連携して基礎研究を行っている企業が多い。これはよい作用を生み出しており、インターネットが登場時には、大学からグーグルやフェイスブックなどのプラットフォームビジネスが誕生した。スタンフォード大学ではこれまでに4万ものベンチャーを生み出している。

オープンイノベーションや大学との連携に取り組もうとしている企業は、日本でも増えてきている。社会全体としてはまだまだクローズドだが、これからの動きに注目したい。
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インタビュー=谷本有香 構成=細田知美 撮影=藤井さおり 取材協力=Quantum Leaps Corporation 撮影協力=KNOCK CUCINA BUONA ITALIANA MIDTOWN

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