日本のモダニズム建築がデザインの未来をインスパイアする

ハーバード大学建築学部長を務めた森俊子氏。公私ともに親交を持つボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ・ディレクター、トーマス・マイヤー氏とともに、いま急速に失われつつある近代建築の価値を世に問う。

トーマス・マイヤー氏との出会いは、どんなところにあったのでしょうか?

森:急に、「会いませんか」という連絡が入ってきたんですね。別荘を建てたいとおっしゃって。それを任せて下さることになったんです。実は彼のお父様も建築家だったそうですが、お父様然り、ミース・ファン・デル・ローエやブルーノ・タウトなど、ドイツの建築家たちは皆、日本文化に共感を抱いているんですね。ドイツと日本には、何か文化的な共通点があるみたいですね。

―そんなマイヤー氏が率いるボッテガ・ヴェネタは、ファッションブランドでありながら、日本のモダニズム建築を見直そうという取り組みをしていますね?

森:建築を見直すということは、まずそれが誰の持ち物なのかという意識の話でもあるんですね。不動産としての権利所有者以上に、社会の持ち物でもあるので、市民の間から声を上げていく必要があると思います。

―そういった時に、ボッテガ・ヴェネタのような世界でリスペクトされているブランドから発言があると、影響力がありますね?

森:これまで、イタリアのブランドがイタリアの建築を守る、というような取り組みはあったのですが、今回のように国籍を越えて、イタリアのブランドが日本の建築の保護に向けて声を上げるというのは、極めて稀なケースといえるでしょう。ボッテガ・ヴェネタはイタリアのブランドである以上に、職人技や文化を、もっと大きな目で見守っているという証ではないでしょうか。

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―ホテルオークラ東京が建てられたのは1962 年。日本が高度経済成長期の真っ直中だった時です。間近にオリンピックがあり、象徴的なものを求めていたという時代背景もありました。今度はどのような社会的な欲求・要素というものが新しい建築に込められるのでしょうか?

森:今は高度成長期ではないですけれど、やはりオリンピックがあるのでおもてなしの精神というのは続けなければいけないわけです。どのような新しい形で古い文化を大切にしながら、新しい東京のイメージを世界に発信していくかということが同じ課題になるのではないかと思います。良いものを残してその上にまた積み重ねて、培っていくような上手なやり方で改築改装などを進めていただきたいと思います。日本という国は成人した社会・文化ですから、時代の変化や過去の出来事など、考えながら新しいものを作り、成熟した形で世界に示すことが出来るのではないかと思います。
(以下略、)

大野重和

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