そして2015年6月に中国国内向けに「Ticwatch」を発表。翌年のグローバルモデル「Ticwatch2」はCNN等の西側メディアから「低価格ながらサムスンのGear2に匹敵する高機能を実現した」と評価され、200万ドル以上の支援金をキックスターターで獲得した。
同時期にグーグルからも出資を受け、ウェアラブル規格「アンドロイドウェア」の公式パートナーに認定。グーグルのスマートウォッチ「Moto 360」の中国モデルには、モブボイの中国語の音声検索エンジンが搭載された。
多くのAI企業がソフトウェア開発のみに専念する中で、モブバイは独自のハードウェアを送り出すことが長期的に生き残る道だと考えている。
価格競争には巻き込まれない
「中国では顔認証テクノロジーなどを、大手企業向けにフリーミアムモデルで提供する企業も多い。ソフトだけに専念していれば、低価格競争に巻き込まれるのは明らかだ。ソフトとハードを一体化させたデバイスを提供し、ブランドの認知度と価値を高めていく」
アマゾンのエコーやグーグルのグーグルホームで加熱するスマートスピーカー市場でも、モブボイは独自のブランド「TicHome」シリーズを展開。昨年11月には持ち運び可能で防水対応の製品「TicHome Mini」を約75ドルで発売した。
モブボイのスマートスピーカー「TicHome」シリーズ。中国国内限定モデルのTicHomeの価格は約2万5000円と競合より割高だが、音質や操作性を重視したハイエンドモデルとの位置づけ。
グローバルモデルの「TicHome Mini」は約99ドルで日本語や英語など、各国語に対応。サイズは直径約11cm、高さ4cmでグーグルホームミニとほぼ同サイズだが、IPX6の防水性能を持つ点が特徴。「家庭内のどこでも使用可能なスマートスピーカーを目指した」と李CEOが言うように、台所やバスルームでも心配なく使える。
「アリババやシャオミ、テンセントといった大手も続々とスマートスピーカーを発表しているが、音声認識のコアテクノロジーを握るモブボイには十分チャンスがある」と李は言う。
「我々のゴールはスマートスピーカー市場でトップシェアを握ることではない。次世代の音声操作デバイスをあらゆるジャンルに投入していく。その一つにスマートスピーカーがある。スマートイヤホンや家庭向けロボットのアイデアも練っている」
創業以来モブボイは黒字を生んでいない。しかし、今はまだ収益化の段階ではないという。
「今から5年も経てば、あらゆるデバイスがネットにつながり独自の音声操作機能を備えるようになる。市場が成熟する前に参入し、自社のテクノロジーを磨き上げていくことで、この分野をリードするプレイヤーになれる」
モブボイの社名の由来はモバイルとボイスの融合だ。世界の全てをボイスで操作する“次世代の魔法”を、社員数500名のスタートアップが生み出そうとしている。