「モブボイの使命はAIと音声認識を活用したプロダクトを、暮らしのあらゆる場面に最適化していくこと。家庭内ではスマートスピーカーが役立つし、ジョギング中ならスマートウォッチが欲しい。そして車内では専用のデバイスが必要だ」
そう語るCEOの李志飛(リー・ジーフェイ)は2000年代初頭にチャイナモバイルのエンジニアを務め、2005年に米ジョンズ・ホプキンス大学に留学。コンピューターサイエンスの博士号を取得した後にグーグルに入社。2012年に中国でモブボイを創業した。
「今から数年後には中国を走る8割の車がネットにつながるだろう。そこで求められるのはハンズフリーでアイズフリーな(視覚を邪魔しない)専用デバイスだ。フォルクスワーゲンとはそのビジョンを共有している」
中国では数少ないグーグル出身者が立ち上げたスタートアップのモブボイは、創業と同時にセコイアキャピタル等からシード資金を調達し、WeChat向けの音声検索アプリを開発。「中国版Siri」と呼ばれ高い評価を得たが、李は当時既にスマートフォンのインターフェースに限界を感じたという。
「スマホだけに依存していたら、根本的な変化は起こせないだろうと思った」
ウェアラブル時代の幕開け
転機となったのは、2014年のグーグルグラスの出現だ。モブボイはグーグルグラスが中国語で操作できるアプリを開発した最初の企業だった。
「世間ではグーグルグラスは失敗だったと思われているが、ウェアラブルの概念を具体化し、世の中に提示した意義は大きい。ウェアラブルこそが次世代の音声検索のプラットフォームになると直感した」
そして始動したのが現在のモブボイを代表する製品の一つ、スマートウォッチ「Ticwatch」の開発だった。
「ハードウェア分野の知識は一切無く、本当にゼロからのスタートだった。自分でスマホを分解して内部の構造を把握するようなことまでやった。全くの手探りだった」と李は当時を振り返る。
「でも、ラッキーだったのはその頃スマートフォン事業から撤退を決めたノキアの北京オフィスが大規模なリストラを行ったこと。経験豊富なエンジニアたちを一気に採用できた」