──どんなイベントなんですか?
デザインの力を軸に、クリエイターと地元のコミュニティが一緒になって、地域の課題を解決していくイベントですが、目的は2つあります。
ひとつは、クリエイター自身の才能を、イベントから生まれる作品を通して外に発信すること。もうひとつは、地元の情報を伝えることです。地元にこういう課題がある、あるいはこういう魅力があるということを発信していく。もちろん課題よりも魅力であった方がいいわけですが、多くの場合、魅力があってもそれをいかに伝えるかに課題があるので、それをデザインの力で解決するということです。
......と、これが表向きに言っていることですが、実はもうひとつ、裏テーマがあります。それは、クリエイターの感覚と、地域のコミュニティの感覚の間にある「ギャップ」を少しでも埋めることです。クリエイターの特権って、本来であればどこでも働けることだと思います。でも、多くの仕事がやはり、大都市に集中してしまうため、地域で仕事がしたいと思っても、実際には仕事が得難いとか、あるいはクライアント側との認識のズレがあって、仕事がしづらい現状があるんです。
そういった声をたくさん聞いていたので、そのギャップを埋めるようなことが何かできないか、と。もちろんそれは直接的なものではなくて、体験の中から感じていただくということを意識してやっています。
──クリエイティブと地域コミュニティの橋渡しのような役割ということですね。企画、あるいは運営する上で大切にしていることはありますか?
イベントをつくる際にはまず、地元の課題の洗い出しの部分から、地域の人たちと一緒に時間をかけて丁寧に行います。参加する方々には、取り組む課題を「自分ごと」として捉えていただきたいからです。イベントに参加される方の中には、自主的に参加する地元のデザイナーもいれば、一般の観客として参加したいという方もいます。
でも、そのいずれにもちゃんと自分ごととして課題に対する「オーナーシップ」を持ってもらいたいと考えています。そこで初めてエネルギーというものが生まれると思うので。課題を解決した先に一企業だけが得をするのではなくて、地域社会全体が良くなる課題は何なのか、ということを課題の洗い出し段階でみんなで探っていきます。
オーナーシップの次に大切にしているのが、「デザイナーの気持ちがアガるか」ということです。イベント当日にお題を発表するのですが、その瞬間に参加デザイナーさんたちの表情に表れるんです。パッと明るくなる人もいれば、頭を抱える人もいる。やっぱり楽しくなくちゃ熱は生まれないので、デザイナーたちの感情をつかむことも大切だと思っています。
当日のお題発表から、2人1組のチームに分かれて実際にデザイン制作していきます。最後に各チームがアイデアを一般観客に向けて発表し、優勝アイデアを決めるのですが、そのアイデアをもとに行政なり地元の団体なりに実現してもらうのが、一番きれいなアウトプットの形です。まあ、途中でつまずくこともたくさんありますが(笑)。
という感じでプロフェッショナルのクリエイター向けのイベントをずっとメインに活動してきましたが、最近はここにさらに「教育」が加わって、子どもたちを対象にした「デザイン×地方活性×エデュケーション」という掛け算プロジェクトを行う機会が増えてきています。
──教育に目を向けたのはどうしてですか?
日本の12〜18歳、他国の11〜17歳を「Z世代」と定義づけて、世界5カ国(日本、米国、英国、オーストラリア、ドイツ)の子どもたち約2700人を対象にアンケート調査を行いました。そこで投げかけたのは「Do you think you are CREATIVE?=自分のことをクリエイティブだと思いますか?」というシンプルな質問だったのですが、その結果が衝撃的なものだったんです。
日本のZ世代で、自分が「創造的」だと回答した子どもは8%という結果に。欧米諸国と比較するとその差は歴然だ。
アメリカはもちろん高くて、47%が「YES」。イギリスでもドイツでも40%前後。それに対して日本の子どもで「YES」と答えたのは、なんと8%にとどまっているんです。