「素晴らしい記事ですね。私はかつて、素晴らしく有能なリーダーの元で働いたことがあります。入社時、彼女から成功の秘訣(ひけつ)として『業務はたった10%、人が90%と覚えておくように』と助言されました」
マネジメントのバランス
この「10対90」の考え方、他の人だったらどう考えるだろうか。
私の考えを言わせてもらえば、マネジメントにバランスが要求されるのは確かだ。技術的専門性(10%の「業務」の要素)が必要なのも間違いない。管理する分野で安定した能力を発揮できなければ、部下から支持が得られず、管理職としての成功が阻まれるかもしれない。部下から尊敬を得るには、どんな分野であれ、仕事についての深い知識を持つことが必要だ。
その一方で、「人」の要素も必要だ。マネジメントの中核はやはり、他者を通じて業務を遂行することだからだ。協働し、人にやる気を与え、生産的な職場関係を形成するなど、他者と働く一定水準の能力が必要になる。部下が毎日職場に戻ってきて、同じことを繰り返し行う意欲を持つようにしなければならない。
技術力は満足も、人間力は不足
私が「人」重視のマネジメント側に偏りがちだというのは周知の事実だ。私はキャリアの中で、技術的能力は非常に優れているものの、対人スキルが弱い人を採用した例を数多く見てきた。こうしたケースは後々、問題となることがほとんどだった。マネジャーが部下との関係をうまく築けないと、コミュニケーションや評価、やる気、士気、そして最終的には生産性と離職率の問題につながることが多い。
それでは、この10対90という比重は正しいのだろうか? それとも20対80、30対70、あるいは5対95が正しいのか。これはおそらく答えの出せない問題だろう。「人」の比重は50よりも大きくなるとは思うが、仕事や事業の内容によっても変わるため、はっきりとした数字を述べることは非常に難しい。
ただ、現代マネジメントの父と称されるピーター・ドラッカーはかつて次のように記した。私はこれを100%支持している。
「最も効果的に仕事をするリーダーは、『私』という言葉を決して使わないように思える。これは、『私』と言わないよう自己訓練したからではなく、『私たち』や『チーム』の視点で考えるからだ。自分の仕事はチームを機能させることだと理解している。責任を避けることなく受け入れるが、評価されるのは『私たち』だ。これにより信頼が生まれ、業務を完了することができる」
少し言葉は違うかもしれないが、このドラッカーの考えは、私の元同僚の優秀な元上司が口にした「10対90」の考え方に近いように思える。