脊髄反射で「いいね」する 常時SNSな私たちへ向けた美術館の挑戦

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わたしだけの展示物リスト

展示室内には大きなテーブルがいくつか設置されている。ペン先をタッチしてみると、これまで集めた展示物たちがパネル上に読み出された。


館内にいくつかある大テーブル。パネルをペン先を使って操作する

このテーブルでは、脊髄反射的に収集してきた作品のことを深掘りすることができる。関連する所蔵コレクションやそれぞれの背景、デザイナーやデザインプロセス、素材などについて学べ、ペンを使って、自分のデザインを描くことも可能だ。

最後の部屋はドラマチックで、お気に入りの作品を読み出すと、部屋中の壁がその柄になる仕掛けになっている。サイズや色をアレンジすることもでき、アレンジしていくうちに自分なりに展示物の制作プロセスを考えたり意見を持つようになっていたりした。


(c)クーパーヒューイット・スミソニアンデザイン博物館より

またこれは、非日常として完結し、一過性のエンターテインメントに終わる仕掛けではない。ペンは入場チケットと紐付いている。チケットに印刷されているIDをウェブサイトで入力すれば、収集した「お気に入りリスト」を帰宅後にも眺めることができるのだ。もちろんスマートフォンからアクセスすることも。


(c)クーパーヒューイット・スミソニアンデザイン博物館より

私たちは脊髄反射で「いいね」する。そしてその興味を深めるタイミングにはわがままだ。ミュージアムを去ったあとにいつでも見返しさらなる学びを始められる仕掛けは、そんな私たちに寄りそう。

実験できる組織

これからのミュージアムには、より柔軟で可変な体験のデザインが求められる。所変わってロンドンV&Aミュージアムでは、これを叶えるためにソーシャルメディア担当やUXデザイナーを採用し、実験的でモダンな組織をつくっている。

モバイルデバイスのなかった時代、人々は鑑賞しながらときにメモをし、チケットの半券を手帳に挟み、あるいはカタログを買って眺めていた。そうして愛着を持ち、学びを得るタイプの人間だった。いいね時代の人間は、そのプロセスがかつてと異なる。ただ感性や想像力が陳腐になったり、エンタメ的な強い刺激以外を受け入れられなくなったわけではない。

各ミュージアムの持つ貴重な価値と鑑賞者の思考や感性を、どのように繋げるべきか。そこに時代とフィットする「鑑賞のデザイン」がある。ミュージアム自体に、存在意義とスタンスの問われる時代がきている。

文=横田 結

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