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91年生まれの起業家が見た「映像の未来」

劉は南京大学に在学中の2014年に、動画サイトでVR(仮想現実)映像を見て衝撃を受けた。フェイスブックがVRヘッドセットのオキュラスリフトを20億ドルで買収して話題になったその年、彼はこの分野の巨大なポテンシャルに気づいた。

「グーグルがスマホで手軽にVRが体験できる『カードボード』を発売して、さっそく入手してその没入感を体験した。当時はVRコンテンツを撮影する360度撮影対応のカメラがまだ少なく、この分野で起業すればチャンスがあると思った」

玩具工場を経営する父のもとに1991年に生まれた劉は、小学校5年生の頃に独学でプログラミングを始めた。高校時代には、プログラムの全国大会で優秀な成績を収め、2010年に難関の南京大学に入学を果たした。

「南京大学を志願したのはテクノロジーに強い大学だという評判を聞いたから。けれど、大学の講義にはあまり出ず、家でプログラムを書いている時間のほうが長かった。卒業して会社員になるという発想は無かった。誰かに指図されて生きるのではなく、自分の人生を生きたいと思った」

劉の大学時代は中国でスタートアップのエコシステムが整備された時期と重なる。2010年には中国のスタートアップ情報サイト「36気(36kr.com)」が始動し、起業家と投資家をつなぐプラットフォームが生まれていた。

「ベンチャーキャピタルから出資を受けて、自分の事業を始動させようと思った。当初はライブストリーミングのアプリを立ち上げようと計画し、卒業する直前にIDGキャピタルから100万ドルの資金を調達した」

卒業後、南京大学の同級生たちとともに深圳にやってきた。

「ハードウェア製品を作るのなら深圳に向かうのがベストだ。南京では電子部品の調達に時間がかかるし、優秀な人材を雇用するのは難しい。当時は既にリコーのような大手が360度カメラをリリースしていたし、中国の競合も先を争ってこの分野に参入した。ただし、スマホとの連携が面倒だったり欠点も多かった。一刻も早く優れたプロダクトを生み出そうと考えた」

2015年3月、まだプロトタイプの製作段階にあったInsta360に中国のトップベンチャーキャピタルの一社、「Qimingベンチャーパートナーズ」は800万ドルの資金を投じた。

しかし、ハードウェア製造の分野は資金さえあれば人材を集め、プロダクトを製造できるほど甘い世界ではない。

「最初に直面したのは人材獲得の難しさ。優秀なエンジニアを招き入れるためには、この会社が必ず伸びると説得する必要がある。次に苦労したのは部品のサプライヤーの説得。彼らも目先のお金だけで動く訳ではない。新しい製品を生み出すためには、サプライヤー側も投資が必要だ。360度カメラには未来があるんだと何度も説得して、ようやく納得してもらった」

取材・文=上田裕資 写真=セオドア・ケイ

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