監督賞はまたもメキシコ出身、アカデミー賞の「国際化」事情

ギレルモ・デル・トロ監督 (Photo by Frazer Harrison/Getty Images)


どうもハリウッドでは、どこかの国の大統領の発言とは異なり、メキシコとの間に「国境の壁」はつくられてはいないようなのだ。「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で作品賞と監督賞を受賞したとき、イニャリトゥ監督はこんなジョークも飛ばしていた。

「たて続けに、メキシコ人が受賞して、政府は移民の受け入れに関して、来年規制を入れるかもしれないね(笑)」

ところで、ここ10年を見ても、監督賞を受賞したアメリカ人監督はわずか2人しかいない。2008年度に「スラムドッグ$ミリオネア」で受賞したダニー・ボイルはイギリス人、2009年度の「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグローこそアメリカ出身だったが、2010年度「英国王のスピーチ」のトム・フーパーはイギリス、2011年度に「アーティスト」で受賞したミシェル・アザナヴィシウスはフランス、2012年度の「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」のアン・リーは台湾出身だ。

2013年度以降は前述のように「メキシコ旋風」が吹き荒れて、結局、この10年間でアカデミー賞の監督賞に輝いたアメリカ人は「ハート・ロッカー」のキャサリン・ビグローと「ラ・ラ・ランド」のデミアン・チャゼルだけなのだ。

この結果から見て、アカデミー賞がいまや「国際化」していると断じるのはいささか早計だとは思うが、いまハリウッドには世界中から優秀な映画の才能が集まってきているというのは、紛れもない事実かもしれない。

今回、ギレルモ・デル・トロの「シェイプ・オブ・ウォーター」と作品賞を争ったと言われる「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督はイギリスとアイルランドのふたつの国籍を持っている。「ブレードランナー2049」の監督に抜擢されたドゥニ・ヴィルヌーブ監督はカナダの出身であるし、その他ヨーロッパや南アメリカからも続々と新しい才能が発掘されて、ハリウッドでの仕事を展開している。

日本のお隣りの韓国からも「イノセント・ガーデン」(2013年)を撮ったパク・チャヌク監督や、「オクジャ/okja」(2017年)のポン・ジュノ監督などが、映画の本場に招かれて作品を発表している。

今回のアカデミー賞では、「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(ジョー・ライト監督、日本公開3月30日)で、メーキャップ&ヘアスタイリング賞を日本人の辻一弘さん(48歳)が受賞したが、いつの日か、日本人の映画監督がアカデミー賞の作品賞や監督賞に輝くことはあるのだろうか。


メーキャップ&ヘアスタイリング賞受賞者。左端が日本人の辻一弘(Photo by Kevork Djansezian/Getty Images)

筆者は一度、現地で実物のオスカー像を手にしたことがあるが、意外に重かった。それにふさわしい監督がこの国からも登場することをひそかに期待している。

映画と小説の間を往還する編集者による「シネマ未来鏡」
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文=稲垣伸寿

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