ビジネス

2018.03.06

私がフェイスブックで学んだ「ザッカーバーグの言葉」

Photo by Justin Sullivan/Getty Images

日本企業としては初の役職、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)に就任した日本ロレアルの長瀬次英は、フェイスブックに在籍していた。そこで彼が学んだこととは。


「Welcome to Facebook!」

Tシャツ姿のザッカーバーグが本社に集まった新入社員たちを見渡し、声をかける。2014年春、当時37歳だった長瀬次英もその中にいた。クライアント・パートナーなる役職に就く彼は、フェイスブックの新人研修に参加していた。「そのときに配られたのが、これです」と、彼はカラフルな一冊を見せる。ザッカーバーグの言葉を中心に編まれた、しゃれた標語集だ。

「表紙のカバーも背表紙もありませんよね。 “未完成”がコンセプトだからです。フェイスブックに“完成”という概念はなく、わざとオフィスの天井を丸見えにしてみたり、壁の一部が剥がれていたり。常に誰かが良くしていこうという考え方なのです」
 
パッと開くと、“Unfinished=Hope”の文字。長瀬は日本ロレアルのデジタル戦略統括責任者になったいまもこの本を読み返す。忘れがちな基本を思い出させる次のような言葉があるからだ。

“Remember, People don’t use Facebook because they like us. They use it because they like their friends.(忘れるな、人々はフェイスブックが好きだから使うのではない。彼らは友だちが好きだから使っているんだ)”

「これはすべてのことに当てはまると思います。消費者はどこの化粧品ブランドだからとメイクをするわけではなく、美しくなった自分を人に見てほしいのです」

デジタルの世界の本質も教わった。

“If we don’t create the thing that kills Facebook, someone else will.(フェイスブックを壊すものをつくらなければ、ほかの誰かが壊しにくるだろう)”

「ビジネスは誰かに取って代わられるもの。ネット企業に限らず、大企業だから勝てるという世の中ではなくなりました。自らを壊し、強くならなければならないという新しい概念です」。

その心構えを象徴するのが本社の玄関にある「いいね!」ボタンの看板だろう。裏側を見ると、かつてここにあったサンマイクロシステムズの看板のままだ。自らへの戒めであり、彼らが言う「ハッカー・ウェイ」を意味する。この看板のようにすでにあるものを使って何かをしたり、あるいは問題解決のために時間を短縮したり、「境界線を超える」という発想法である。

“Everything is up for debate.(すべては議論される)”

これには次の文章が続く。

〈意見を持つことを恐れるな。ゴールは常にいい商品をつくること。あなたが思ったことに誰かが反対したら主張しなさい。ザッカーバーグは創業者でCEOだけれど、忘れてはいけない。ザックはただの男でもある。彼に好かれようなんてことを考えるな。ザックが考えていることを忖度するな。あなたは自分の意見を持つために雇われているのだから〉
 
企業文化の「早さ」の意味も説く。

“Stay focused and Keep shipping.” “The quick shall inherit the earth.”〈製品やサービスそのものは世の中を変えない。使われてこそ、だ。だから、常に世の中に提供し続けなければならない。早さはレースに勝つためではない。次のステップを助けてくれるものだ〉

のちにインスタグラムの日本事業責任者、そして日本ロレアルに移った長瀬は、フェイスブックでの経験をこう言う。

「ただ忙しく生きてきた僕が、本来の自分に立ち戻る時間だったと思います。人々とのつながりを構築することがミッションですが、SNSでつながればいいわけではなく、人に会うことの大切さ、人への興味、人間性がないと、こうした発想は生まれてきません。この本にあるのは企業理念を超えた、人間の生き方です」

本の最後をめくると、ザッカーバーグのこんな言葉が一言、こう示されている。

“THIS JOURNEY 1% FINISHED”


長瀬次英◎ユニリーバジャパンなど、さまざまな業態でブランドの戦略構築や新商品開発を行う。2015年、日本ロレアルに、デジタル戦略統括責任者/CDO兼エグゼクティブマネジメントコミッティーメンバーとして入社。

文=藤吉雅春 編集=フォーブス ジャパン編集部

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