最高の走りに達したアストンマーティン、ヴァンテージ

フィンランドで試乗したアストンマーティン・ヴァンテージ


実はヴァンテージができたのは、DB11があったからだと言えるだろう。というのは、同車が採用しているサスペンションと、ツインターボ4.0LのV8エンジンとZF製8速A/Tは、DB11とほぼ同様のスペック。DB11よりも10cm短いけどね。V8エンジンは、実はメルセデスAMG製で510psと685Nmを叩き出しているので、性能は申し分ない。スロットル・レスポンスが非常にスムーズで速いのには驚いた。

ただ、AMGのアグレッシブな音作りとは対照的に、ヴァンテージはトラックモードでは「ポポポ」とか「カカカ」という音を出すので、よりスポーティで品のいいエキゾーストノートと言えよう。サスは特別にチューニングされていて、ステアリング比もDB11と同じだけど全長が短い分、レスポンスが良くなってターンインが速い。

V8のパワー感と後輪駆動のコーナリングのバランスは抜群にいい。低速で滑りやすい道で走れるからこそ、その走りのできの良さが伝わってくる。



氷上トラックでの走行は、速くても40〜50km/hなので、まるでスローモーションの感覚。この状態でヴァンテージの評価ができる貴重な経験だ。微妙なステアリングの修正、小まめなアクセルワークをするように心掛けながら、できる限り雪の壁に刺さらないように気をつける。そういうハンドリングを可能にするのは、新しいコンピュータ制御によるEデフだ。

旧型車には機械式デフだったけど、Eデフを採用していることによって、減速時と加速時にスタビリティを重視し、ターンインではデフをフリーにして旋回しやすくしている。見事だ! トラクション・コントロールがオン状態では、前輪がキュッとコーナーの内側に向けると同時に、後輪が流れないように加速を上手に調整する。

ベッカー氏はさらに説明してくれた。「ブレーキによるトルクベクタリングも力強く働いているおかげで、デフをフリーにして走行できる。そうすると、前後バランスは抜群だし、ノーズが思う通りに素早くターンインしてくれる。これは最もハンドリングの優れたアストンですね」という。

トラクション・コントロールを解除してコースに出ると、20km/hでもドリフトし放題。でも、Eデフのおかげで、修正しやすいし、ドライバーに自信を与えるというか、本当に車と会話ができている。コクピットも当然、上質の本革などを使っていて、スイッチ類が独特で格好いい。シートのサポート性もいいし、視認性も文句なし。



この雪上コースで乗って、1分でわかった。新ヴァンテージのニューフェースは十分迫力があり、音も病みつきになる。でも、何よりも良かったのは、FR車でありながら、アンダーが出にくく、とにかくテールが綺麗に曲がってくれる抜群の旋回性だ。

雪上もいいけど、ぜひとも+20℃の一般道でも乗ってみたい。新ヴァンテージの欠点? ま、確かにあの新ヘッドライトには慣れが必要だけど、1980万円という価格かな。でも、これほど五感をくすぐってくれるスーパースポーツは、さすがアストンの新時代に相応しく刺激的だ。

国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
「ライオンのひと吠え」 過去記事はこちら >>

文=ピーター・ライオン 写真=アストンマーティン

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事