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2018.03.06

踊る副市長、豚とカンパチを「住民の誇り」へ

鹿児島県鹿屋市で、2年9か月間副市長を務めた福井逸人

地域の資源を活かした地域活性化のお手本のような事例がある。2014年に農林水産省から鹿児島県鹿屋(かのや)市に出向し、2年9か月の間、副市長を務めた福井逸人がその立役者だ。

福井はかつて、「人は10万人、豚は24万頭、カンパチは100万尾」と鹿屋市を紹介していた。農水省に勤める福井からすると、日本屈指の畜産・水産の町である鹿屋は資源の塊であった。

しかし、福井が町に来てみると、豚の関連施設は「臭い!」などと言われ、まるで迷惑施設かのように扱われていた。この現状を危惧した福井は、地域資源が町の誇りになるように様々な仕掛けを展開した。

豚を地域から愛される存在へ

福井はまず、豚の生産者や加工業者などに加えて、全国最大規模の薔薇園である「かのやばら園」の関係者、さらに飲食店関係者に声をかけた。豚"バラ"肉と"薔薇"をかけて、豚バラ肉を薔薇の花のように盛りつける「豚ばら丼」を、飲食店のメニューとして開発してもらったのだ。企画に参加する飲食店には「丼に鹿屋への愛情を注ぐ」を条件の一つとした。

この福井の動きに触発されて、鹿屋市漁協は他の飲食店に「カンパチdeリゾット」というメニューを販売してもらうように働きかける。この2つのメニューを「カンパチ VS 豚 世紀の対決」と銘打ち、自然と楽しく町に豚や薔薇、カンパチなどの資源を浸透させていった。

豚ばら丼のキャラクターも制作。市役所職員がデザインし、そのPRも兼ねて市内の小中学生から愛称を募集して、「ばらブー」と名付けた。黒豚を育てる名人が、小中学校で講話をする場も設けた。子どもたちは目をキラキラさせて話を聞き、名人も「子どもから力を貰える」と喜ぶ。地域のつながりを育む中で、豚への理解や愛情を深めることへとつながった。

ついに、豚ばら丼は鹿屋の給食でも出るようになる。豚ばら肉を給食に出すのは価格的に厳しいが、給食センターが協力し、コストを抑えたアイデアによって実現させた。年に1度のメニューだが、給食の人気メニューでベスト10に入った。

福井の実績はこれだけではない。豚を市内でPRするだけでなく、町の外へ販売していく。飼育、加工、販売までの工程を市内で完結させ、スーパーで売られる豚ばら丼の具を出荷し、北は関東から南は沖縄まで年間8万食を売りきった。福井は販売が進んだことも嬉しかったが、鹿屋の名前が入った8万個の商品が全国のスーパーに並んだことにも大きな喜びを噛みしめた。
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文=加藤年紀

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