作品賞の候補作は例年、6200人以上の映画業界人で構成される映画芸術科学アカデミーによって5本から10本が選ばれる。今年選出された9本のうち断トツの興行収入を誇るのは、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」だ。製作費1億ドルで、9本中唯一の高予算大作である同作は、全世界興行収入5億2560万ドル(約561.5億円)を上げ、2位のジョーダン・ピール監督作「ゲット・アウト」(2億5500万ドル)の倍以上の額を稼ぎ出した。(以下、明記がない限り金額はすべて全世界興行収入)
3位は、1億4580万ドル(約155.8億円)を獲得したスティーヴン・スピルバーグ監督の「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」。4位にジョー・ライト監督作「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」(1億3580万ドル=約145.1億円)、5位にマーティン・マクドナー監督作「スリーボード」(1億2150万ドル=約129.8億円)が続く。
9本中7本が、1億ドル台または1億ドル以下に留まったが、8位のポール・トーマス・アンダーソン監督作「ファントム・スレッド」を除く全作品が製作費を回収した。「ファントム・スレッド」は推定3500万ドル(約37億4000万円)の製作費に対し、全世界興収は現時点で3330万ドル(約35億6000万円)に落ち着いている。
9本のうち最も利益率が高かったのが「ゲット・アウト」だ。人種差別をテーマにしたコメディホラーである同作は、450万ドル(約4億8000万円)で製作され、その57倍もの全世界興収を上げた。アカデミー賞では作品賞の他、監督賞、脚本賞、主演男優賞にノミネートされている。
「ゲット・アウト」のプロデューサーの一人で、これまでにも数多くの低予算映画をヒットさせてきたジェイソン・ブラムは、昨年3月の「Vulture」の記事で「予算が多くなればなるほど、創作上のリスクを取れなくなる」と語っている。
意外にも「ワンダーウーマン」が落選
今年の作品賞候補作は、全米公開館数が2000以下のアートハウス系映画が半分以上を占めている点が特徴的だ。興行成績9位のルカ・グァダニーノ監督作「君の名前で僕を呼んで」(2900万ドル)は4館で封切られた後、大幅に拡大公開されたが、1000館には届いていない。
反対に、全世界興収8億2180万ドルの大ヒットを達成し、批評家にも高く評価されたパティ・ジェンキンズ監督の「ワンダーウーマン」は作品賞候補に選ばれなかったどころか、いかなる部門でのノミネートも逃した。今回、アカデミーはそれほど多くの人に観られていない作品を候補に選出したと言えるだろう。
アカデミー賞の歴史を辿ると、作品賞と興行成績は決して無関係ではない。1998年に作品賞を含む驚異の11部門受賞を果たした「タイタニック」は21億ドル、2004年に同じく11部門を制覇した「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」は11億ドル、2009年のノミネート作「アバター」は28億ドルと、それぞれ世界的な大ヒットを記録した作品だった。
米国では2017年、映画の観客数が前年から6%減少した。映画業界は国外での興行収入をより重視するようになり、世界的にヒットする作品が重宝されている。その一方で、近年のアカデミー賞は世界で大ヒットしているとは言えない映画を多く選出するようになっている。