さて、ニースには旧市街という観光スポットがあり、そこにあるサレイヤ広場では火曜日から日曜日まで毎朝市場が開かれます。特に土日の朝は賑やかになりますが、ニースっ子のエスプリ(精神)と言いましょうか? 広場のレストランやカフェは、買い物ついでにニース風サラダを楽しむ人々で溢れます。
テラスで素晴らしい日差しのもと食べるニース風サラダは、まるで太陽が味付けしてくれるかのようにとても美味しく、温かい気持ちになります。テラスでこの“サラダ体験”をすると、それは単なる嗜好品ではなく、アートとして身体と心に刻み込まれ、その後どこの地で食べても、味と香りがニースの思い出を呼び戻してくれるのではと思います。
テラスで食事をする人でにぎわうニース旧市街のサレイヤ広場(johnbraid / Shutterstock.com)
そんなニース風サラダが美味しくなるのが、3月からの初春。そら豆やアーティーチョークなどが出てくるこの季節が、旬の食材の苦味と共に非常に賑やかな味わいになります。
毎年この時期になるとレストランのメニューとして「今年はどういうニース風サラダを作ろうか」と試行錯誤しては悩むのですが……レストランで提供するモダンなサラダもいいですが、僕自身はやっぱり伝統的なスタイルが好きだなと思ってしまいます。
ちなみに僕が作るニース風サラダでは、塩をかけません。塩分はアンチョビとツナに含まれているのでそれ以上に必要なく、薬味と言われる季節の野菜に、ニンニクすりおろし入りのオリーブオイルやバジリコ、ラディッシュなどが非常に良いアクセントになってくれます。
今シーズンのニース風サラダ
勝利者を癒したサラダ?
健康、季節、伝統と様々な意味が込められ、あまりにも身近に見るサラダですが、ふっと見直して見ると、これほどニースを世界に有名にしてくれたものはないのではないかもしれません。
ちなみにニースは古代、交易植民都市「ニカイア」として知られていました。ニカイアとは、古典ギリシア語で「ニケ(勝利)の街」を意味する都市名だと言われており、古代からニースは、勝利を得た人たちが自然に癒されるために集っていたのではないかとも連想されます。すると、そんなサラダが、「ホスピタリティ(Hospitality)」を語源に持ち、人々を癒すホテルのメニューに載っていることはまた、とても意味深いことだなと思います。
ニースの人にとってのソウルフードであり、世界中の人にとってのソウルフードでもあるニース風サラダ。ぜひこの時期に一度作ってみていただきたいです。
ニース在住のシェフ松嶋啓介の「喰い改めよ!!」
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