森岡:そうですね。2人とも自分の世界観をきちんともっている。それが強み。しかもトム・ブラウン自身も、ずっと同じスタイルを貫いている。もう一点、彼が復活させたのは、男の基本の色としてのグレーでしょうね。
小暮:メンズの基本色としては、日本ではいまはネイビーのほうが主流ですが、その昔、「ドブネズミルック」と言われるほど、グレーのスーツを着ていました。しかしアメリカではグレーのスーツはエリートビジネスマンの象徴。『グレイフランネルを着た男』という小説はグレゴリー・ペック主演で映画化もされました。
森岡:実は先輩にトム ブラウンを愛用している人がいます。昔からトラッド好きな人で、お洒落な人物です。でもトムほどは上着の着丈を短くしていませんし、パンツの丈も割と普通です。そういうふうにサイズバランスを自分なりにアレンジできれば、職種によっては、お洒落なトム ブラウンのスーツでももっとビジネスシーンで活用できるでしょうね。
小暮:そもそもアイテム自体は、本格的なものばかりですからね。それにコーディネートはビジネスマンが参考にすべきポイントが多くありますよ。
森岡:グレーのスーツにこれまではポイントになる色のタイを合わせていましたが、トム流は、同じグレーのタイを合わせる。時にはスーツと同じ素材のタイを合わせることも。これだけで、スーツの着こなしが変わって見えることを教えてくれたのです。
小暮:どこまでいっても男って、コンサバ。スーツだって、トラッド、クラシックが基本。そのなかで、遊ぶこと、ハズすことはこういうことなんだということを、トムは教えてくれたのです。
森岡:彼はボタンダウンシャツの襟のボタンをわざと外しているでしょ。それだけでVゾーンの雰囲気は一変しますからね。
小暮:「神は細部に宿る」。建築家ミース・ファンデルローエの言葉を体現するブランドではないでしょうか。
森岡 弘◎『メンズクラブ』にてファッションエディターの修業を積んだ後、1996年に独立。株式会社グローブを設立し、広告、雑誌、タレント、文化人、政治家、実業家などのスタイリングを行う。ファッションを中心に活躍の場を広げ現在に至る。
小暮昌弘◎1957年生まれ。埼玉県出身。法政大学卒業。82年、株式会社婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。83年から『メンズクラブ』編集部へ。2006年から07年まで『メンズクラブ』編集長。09年よりフリーランスの編集者に。