ビジネス

2018.03.05

7割は不満足のまま? 生産性を上げる働き方のカギ

Piotr Zajda / shutterstock.com


──なぜ今、エンプロイー・エクスペリエンスの向上をしないといけないのでしょうか。

ミレニアル世代の台頭と価値観の変化のほかに、コンシューマライゼーションの動きがあります。従業員にとって、自身のプライベートでのエクスペリエンスと会社でのエクスペリエンスのギャップが広がっています。

プライベートでは、ネットで注文すれば一歩も動かずに買い物ができるようになりました。とても便利です。ところが会社では、例えば書類提出ひとつでもわざわざ出社して紙に書いて提出しないといけない。家の方が書類を見ながらできて簡単なこともあるのに、それができる会社は少ない。

もう一つは、カスタマイズができないことです。プライベートで受けるサービスは非常に細かく細分化され、自分用にカスタマイズされていて、ほとんどストレスなくやれる。しかし会社の制度は一律で、ストレスだらけです。

プライベートと仕事でのギャップからくるストレスの他にも、膨大な量のメールを受けとったり、企業のグローバル化で相手国に合わせた時間に会議をしないといけないなど、仕事のストレスは昔の比ではありません。それら含めて、労働者全体のエクスペリエンスが変わってきています。

──エクスペリエンスと言っても、同じ事象に対して人の感じ方は様々です。

そこがエクスペリエンスの議論の核心部分になります。エクスペリエンスを改善すればいいのはわかっていますが、求めるものは人によって違う。どうやって一人一人違う感情をケアするのかというのがチャレンジです。出世して責任の大きい仕事をしたい人もいれば、仕事を短時間でして、自分の趣味やボランティアができる方がハッピーだという人もいます。

さらに、一人の人間でもライフステージによって変わってきます。若いうちはがむしゃらに働くのが苦にならなくても、子供ができれば変わることもある。1万人いたら1万通りあることになります。また、お金よりも休みが欲しい人、たくさん働いてたくさん稼ぎたい人にそれぞれどう報いるか。勤務時間や処遇を自分で選べるように、フレキシビリティを高める研究もされています。

そういう多様なパターンの人材やフレキシブルな働き方を人の力でカテゴライズ、マネージするのは大変ですが、テクノロジーを使ってできるようになりました。SNSでは一人一人違うコンテンツが表示されますよね。あのレベルのカスタマイズと同じことが人事でもできないのか、ということがホットトピックです。

例えばデロイトがグローバルで提供しているConnectMeは、住所変更や休暇申請などの人事・労務関係の書類の提出や、人事とのコミュニケーションをワンストップで行えるHRのアプリケーションです。社内のパソコンだけでなくスマートフォン上でも操作でき、従業員にパーソナライズしたストレスの少ないサービスを提供することを目指しています。

──フレキシブルな働き方が増えると、会社の組織のあり方も変わる必要があります。上司や部下の関係性を作らない、ホラクラシーなど独特な組織を作って成長する会社も増えてきました。

組織のありようが大きく2つに分かれています。1つは大企業で、自前で企画、デザイン、製造・販売まで全てやる。そうすると様々な人が必要になるので、組織の多様性が重要になる。

もう1つはネットワーク・オブ・チームズと言われる、ネットワークでビジネスにする考え方で、精鋭化して小チームでやる方向性があります。自分の組織を大きくしないで、足りないものは外から持ってくる。組織が巨大化するほど時代に合わせてビジネスを変えるのが難しく、小さい組織のままの方が早く成長できることもあります。明らかにこの2つのタイプがしのぎを削っている時代です。

ただ、どちらのタイプでも成長する企業に共通することは、「リスクを恐れずに挑戦して、失敗しても次のことをやる、実験と実証を繰り返せる」カルチャーです。それ以外のカルチャーは企業によってバラバラです。「成長するために優れたカルチャーはこうだ」というモノカルチャーの考えではなく、それぞれ異なるカルチャーを持った会社がその個性と業績を互いに競い合うことになるでしょう。


土田昭夫◎デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員。組織と人材に関するマネジメントに関するコンサルティングを手がけ、2017年に『働き方改革 7つのデザイン』(編 日本経済出版社)を上梓した。

編集=フォーブス ジャパン編集部 インタビュー=成相通子

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