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2018.02.28

世界の「交通革命」に逆行 日本の時代遅れな都市計画

(Photo by Carl Court/Getty Images)


年末年始の日本経済新聞の一面に、「『まち』集約 市区の5割 交通再編し居住誘導」(17年12月26日)と「まち機能一段と集約」(18年1月12日)という見出しが躍りました。コンパクトシティ化こそ未来のあるべき都市の姿だと煽っているかのようでした。

実は、いまや5割以上の自治体が、都市機能を中心部に集約することを計画・検討中なのだそうです。無秩序拡散型のまちづくりでは効率が悪く、問題があるからなんとかしようというコンパクトシティの狙いは、筆者も賛成します。しかし、コンパクトシティ化は、「魔法の杖」ではなく、課題もいろいろとはらんでいます。青森市が駅前の複合商業施設に巨費を投じて失敗した例はよく知られていますが、他の自治体もこれという策をつくれるかは不透明のようです。

上記の日本経済新聞の記事では、LRT(次世代型路面電車)やバスで結び、沿線居住者を街の中心部に誘導した結果、地価も上がったと、富山市の取組みを成功例として紹介しています。しかし一方では、このモデル対して「視察は多いようだが、特殊性があって真似は難しい。それに、うまくいっていない部分がある」という専門家の声もあります。あいかわらず郊外のショッピングモールは活気があり、宅地の売れ行きも好調で、それほど中心街に人が戻ってはおらず、閉店もちらほら。とくに若い世代には変化が見られないようです。

このように、コンパクトシティ化は簡単にはいかないのですが、国は都市機能集約へと補助金などの施策で自治体の尻を叩いています。集約化を計画・検討中の市区の半数以上が、交通網の整備をあげていますが、コンパクトシティ化で自治体が国の補助金を受けるには、バスや鉄道のピーク時の運行本数が片道3本以上あるなど、条件があります。

しかし、これには疑問を呈せざるを得ません。国が進めるコンパクトシティは、自動車社会から公共交通へのシフトを柱にしているのです。これではいま世界的に進行している「交通革命」が実現する未来像とは、大きく異なるものになってしまいます。

シンガポールに遅れをとる日本

果たして日本は、脱クルマ社会を掲げるコンパクトシティ化を推し進めたままでいいのでしょうか?

今年1月、ラスベガスでの新技術の祭典CES(コンシューマーエレクトロニクスショー)で、トヨタの豊田章男社長がe-Palette Conceptという物販店舗などを自動運転で提供するEVを、パートナー各社とのモビリティサービスとして発表しました。お店やクリニックなどが向こうから走ってやってくれば、まちづくりも大きく変わります。

アメリカではすでにリフトがいくつかの都市とともにデータを集め、公共交通を含め新たな交通のあり方の検討と具体策づくりに着手しています。救急搬送など試験的プロジェクトも走っていて、都市計画のプロも雇っています。

マサチューセッツ工科大学から生まれた自動運転技術のNuTonomy社(2017年にDelphiが買収)は、アメリカより先にシンガポールと組んで自動運転の試験を始めました。2016年に世界初の自動運転タクシーの公開試験を始めたシンガポールは、2022年に3地区で通勤などに自動運転車を走らせる計画です。

自動運転時代には、10人程度あるいは20人近くが乗れるライドシェア(バス的タクシー)が台頭すると考える専門家もいます。シンガポールの計画は、それに符合したビジョンを感じさせます。公共を含むさまざまな交通機関とトータルにデザインされた新しい交通インフラがつくられるのではないでしょうか。

コンパクトシティの研究は90年代に終わったとも言われていますが、いまこそ新たなモデルを創造しなければいけません。明るい未来をつくるため、いまの日本でなされている変化を無視した古い議論の枠をとっぱらい、来たるべき「交通革命」を視野に入れて、従来の発想を超えた都市づくりを考えなければいけないのです。

文=本荘修二

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