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2018.02.26

AIで外部脅威を「事前防御」するCylanceの実力

Rawpixel.com / shutterstock.com


セキュリティ業界の“マドンナ”
 
とはいえ疑問もある。機械学習をベースにしたサービスならば、データや資金などのリソースをより多く持つ大企業の方が優位なのではないだろうか?

マクルアーは「一理ある」と認めつつも、サイランス創業後、AIに関しては1. データの量と処理能力、2. 研究者の専門性、という2つの要素が不可欠だとわかったと明かす。特に重要なのが後者だ。

「創業したとき、マイクロソフトは機械学習とサイバーセキュリティのいずれも我々のはるか先を行っていた。実際、彼らは機械学習をサイバーセキュリティに取り入れた先駆けだよ。それが今はご覧のとおり。

彼らは数学者や博士で構成されたチームを持っていたが、サイバーセキュリティという特定の目的のためにテクノロジーを御する術を知らなかった。テクノロジーと専門性の両方が必要なんだ。これは機械学習を応用しようと考えている、どの産業にもいえることだよ」(マクルアー)

実際、サイランスはAI研究職の採用に力を入れている。米転職サービス「Paysa(ペイサ)」が17年春に発表した投資額ランキングでも、サイバーセキュリティ業界から唯一ランクインした。



マクルアー自身にも油断はない。サイバーセキュリティの世界では「イノベーションし続けなければ終わり」だからだ。サイランスが目指すのはサイバーセキュリティ業界の“マドンナ”だという。

「歌手のマドンナはデビュー以来、3〜5年おきにイメージを変えてきたよね。いつも進化している。でも、みんなが知っているマドンナだ。うちもそうありたいね」

サイバーセキュリティも“薬”の見極めが大事

サイランスが日本で提携しているのが、サイバーセキュリティ企業「MOTEX(エムオーテックス)」だ。MOTEXはIT資産管理・内部情報漏洩対策ソフトウェア「LanScope」シリーズで同分野の市場を牽引してきた。マクルアーは経営陣のリーダーシップと、同社の製品レベルが提携の決め手になったと語る。

「パートナーシップは“結婚”と同じ。相手との価値観が一緒ならば、最高の関係になれる。そして、LanScopeはIT資産管理という、我々が扱っていない領域に特化している。完璧な補完関係だ」(マクルアー)

MOTEXの河之口達也社長も同意する。以前から外部脅威対策の技術をもつ会社の動向に関心を抱いていたものの、「既存の技術と組んでも大きな成果は得られない」と慎重だった。そこへサイランスのような数学モデルに基づくAIベースの製品が登場したことで組むことに決めたという。河之口は日本企業の危機意識の高まりを歓迎しつつも、「“効く薬”と“効かない薬”を見極めることが大事」と話す。

「各社の製品の特性をよく理解した上で、自社に必要な対策の優先順位を選択し、それに合った製品を導入することが重要です」(河之口)



スチュアート・マクルアー
◎サイランス共同創業者兼CEO。マカフィー元CTO(最高技術責任者)。会計大手アーンスト・アンド・ヤングを経て1999年ITコンサルティング企業「ファウンドストーン」を創業。2004年、同社をIT大手マカフィーに売却。米大手ヘルスケア企業で勤めた後、マカフィーのCTOに就任。元ホワイトハットハッカーで、『クラッキング防衛大全(HackingExposed)』シリーズの共著者としても知られている。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=ヤン・ブース

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