スポティファイがある種の「奇策」とも呼べる方法で上場を行う背景には、同社が世界1億4000万人のアクティブユーザーと、7000万人の有料会員を抱えつつも、収益化を果たせていない現実がある。
スポティファイの有料会員は約10ドルの月額費用を支払っているが、そのうち約6.5ドルはレコードレーベルやアーティストへの支払いに消えていく。残りの3.5ドルから利益を生み出すのは、非常に困難であるのは明らかだ。
スポティファイが収益化を果たすためには、月額費用を値上げする道もあるだろう。しかし、無料の音源があふれている世界で値上げに踏み切ることは、会員数の大幅な減少を招く可能性がある。彼らが直面する課題は、数年前のネットフリックスとかなり似ている。
ネットフリックスは当初、莫大な金額をコンテンツ獲得のために支払っていたが、売上は全く足りず、ビジネスの持続可能性には疑問符が灯っていた。
しかし、その後のネットフリックスが導き出した答は「自社でオリジナル作品を製作すること」だった。オリジナルの製作には巨額な費用がかかるが、ネットフリックスは「ストレンジャー・シングス」や「ナルコス」「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」といった大ヒット作を次々と世に送り出し、今では他の大手ケーブルTVネットワークを脅かす存在にまで成長した。
筆者は上場後のスポティファイがたどるべき道は、ネットフリックスと同じ方向だと考える。大手レーベルにロイヤリティを支払うのではなく、自社でレーベルを立ち上げて、アーティストとダイレクトに契約を結び、ライブをプロデュースする道もあるだろう。
独自楽曲を他社に提供し収益化
このスキームによりスポティファイは自社のコスト構造を変えられるだけでなく、ラジオ局や他のストリーミングプラットフォームに「スポティファイ製作」の楽曲を提供し、新たな売上を得ることができる。
オリジナル楽曲の製作にかかるコストは莫大なものになるだろう。しかし、それをやってこそ、IPOで資金調達を行う意味があるといえる。調達資金をもとにスポティファイは自社レーベルを立ち上げ、バンドやアーティストらを支援することも可能になる。
この話は絵空事のように聞こえるかもしれない。しかし、かつてネットフリックスが自社スタジオを立ち上げると宣言した時、みんなが彼らの事を笑い者にしたのだ。しかし、今やハリウッドの役者や監督らは、なんとかネットフリックスに取り入ろうとしている。
世界のスマートフォン台数は2019年に25億台に達すると予測されるなか、スポティファイの有料会員数も、膨大な伸び代を抱えていると見込まれる。また、独自レーベルの立ち上げを実行しない限り、スポティファイのビジネスモデルは維持不可能であると筆者は考える。