とはいえ、「ながら」「時短」というワードから、美しさや洗練されたイメージを想起させる人は少なく、逆に「雑」「手抜き」といったイメージの方が近いかもしれません。もし「時短で極上」というものがあったら……。手間を省きながらも美しくなり、人生の余白をできるだけ残せる。これほどの贅沢はないはずです。
そんな「時短で極上」が今、美容業界のキーワードになりつつあります。オールインワンといえば、一昔前でいう「リンス・イン・シャンプー」のように、日常的で、手間を省くためというイメージが強いものでしたが、近年は百貨店に並んでいるようなラグジュアリーコスメブランドからもオールインワンが続々と登場しています。
メイクアップしながらスキンケア効果も期待できるコスメ、複数の効果効能を兼ね備えたパワフル美容液、日中のメイク直しが劇的に減るアイテムなど、ひとつで多角的な効果を狙えるアイテムが、忙しい女性の味方として溺愛されています。
そして最近では、これまで「オールインワン」と呼ばれていたものが「ボーダーレスコスメ」と称されることが多くなりました。特にラグジュアリーブランドがその名称を使うことが多いのは、受け入れられるための工夫か、意図的な差別化でしょうか。「オールインワン」も「ボーダーレスコスメ」も一品で複数の機能を持つという点では同義なものの、この改称は、例えば「リンス・イン・シャンプー」のお手軽なイメージと切り離すための賢い戦略かもしれません。
具体的なアイテムでいうと、例えばクレ・ド・ポー ボーテの「ル・フォンドゥ・タン」は、同ブランドの高機能スキンケアクリームと同成分を配合したリッチなファンデーション。化粧下地は不要で1ステップを省きながらも、きちんと肌を美しく見せ、かつ素肌をいたわることができます。30gで3万円と高級ですが、1品でスキンケア・化粧下地・ファンデーションの3機能を満たしてくれる、究極のボーダレスコスメです。
もう少し身近なところでは、近年大ブームを博し、定番アイテムに落ち着きつつあるクッションファンデーションもボーダーレスのひとつです。これまでのファンデーションはパウダー、リキッド、クリーム、と「剤の形状」で分類定義されていましたが、クッションファンデーションはそうではなく「スポンジ」に由来する名前。クッション(まるで朱肉)のようなスポンジにリキッドファンデーションがしみこんでおり、リキッドのしっとり感と、パウダーのさらさら感を両方手に入れられるのが魅力です。
このクッションファンデーションの時短ポイントは、リキッドファンデーションに似た近いみずみずしい仕上がりにもかかわらず、「リキッドとは違って手が汚れないこと」。「手が汚れる」という、考えてみれば原始的な「不」ですが、肌は手で触れるものという意識が根付いているせいか、ここを解消する発想がこれまで出にくかったのでしょう。
手が汚れない=化粧後に手を洗う時間が省ける。かつ、仕上がりも良い。まさに今の女子ニーズに沿ってヒットしたアイテムと言えます。
保湿と日焼け止めの機能をもった化粧下地など、肌に塗るコスメは、比較的早い段階からスキンケアとベースメイク機能を兼ね備えたものが普及していましたが、近年では「肌」に限らずパーツでもその需要が顕著化しています。まつ毛美容液の機能を備えたマスカラ、気になる目元まわりの肌悩みもケアできる多機能クリームアイシャドウなど、メイクで美を装いながらも、そのパーツをケアすることができるアイテムが次々に発売されています。
「綺麗になる」「ケアできる」「手間を省ける」を兼ね備えるボーダーレスコスメは、食の分野でブームになっている「食べる」と「綺麗になる」を兼ね備えるスーパーフードにも共通します。1品で何役もこなしてくれる優秀コスメはますます、新たな形で女子ニーズを満たしていくことでしょう。ラグジュアリー美容は今後、この「時短で極上」をキーワードに向かって更新されていくと私は踏んでいます。