テクノロジー

2018.02.23 18:00

「世界と繋がるガレージ企業」、Drivemodeの誕生秘話


古賀はシンプルな結論に達した。「コネクテッドカーが欲しいわけではなく、みんな、自分がコネクテッドでありたいんだ」と。

携帯やスマホによって、いまや人類の大半はコネクテッドが当たり前。しかし、ハンドルを握った瞬間、コネクテッドになれない葛藤の時間が訪れる。スマホのメッセージを見たいイライラと、手にする罪悪感。だったら、テスラを買えばいいのだが、古賀は言う。「世界のほとんどの人はテスラが買えるわけではないんですよ!」。

「ずっと昔から意地っ張りなもので」

新興国の人々が低価格の中古車をやっと買える時代になった。が、カーナビもカーステレオも高嶺の花。だからこそ、上田は古賀のアイデアに共感し、「マスクの右腕」を辞めて共同創業者になることを決意した。上田が言う。

「車は買った翌日から一日一日古くなります。しかし、テスラのお客様はガレージの中で夜中にアップデイトされて次の日に新しい体験ができる。そこがすごいと言われるのですが、それってスマホで普通にできますよね」

こうしてドライバー向けアプリの開発が始まった。シリコンバレーや東京のエンジニアたちがボランティアで集まり、IDEOの幹部がデザインの指導にやって来て、「投資するよ」と言う人も現れて、結局、なりゆきで会社になった。

ハンドルのそばに設置したスマホで、ナビ、音楽、通話などをシンプルに操作できるアプリ「Drivemode」が誕生すると、熱烈なファンが世界各地に現れ、コミュニティができた。ファンたちはアプリを自国語に翻訳したいと言い、ボランティアによって数十もの多言語アプリになった。

あるいは、ステアリングホイールに取り付けてスマホを遠隔操作するデンソーの商品「くるくるピ」と繋がるようにすると、ヨーロッパのファンが日本人を探し出して、わざわざ日本から「くるくるピ」を取り寄せる。アプリからフィードバックされる大量のデータを使って、ビジネスをしたいと言う企業もある。

古賀がカーナビでイライラした経験が、ガレージと世界を繋げたわけだが、思えば古賀の人生はずっとこうだった。偏差値30台の自分に我慢がならず、一念発起して明治大学に合格し、再び現状に我慢ができずにハーバードに進学。Zipcarなどを経てシリコンバレーにたどりつき、ベンチャーキャピタリストになっていた。

「世界はこう変わるだろうと思っても誰もやらないから、チームをつくって僕が変えればいい」と言った後、こう言うのだった。「ずっと昔から意地っ張りなもので」

古賀洋吉◎1975年生まれ。明治大学を卒業後、マイクロソフトのエンジニアなどを経て、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。2014年にDrivemodeを創業した。

上田北斗◎1984年ロサンゼルス生まれ。ワシントン大学で機械工学を専攻。2011年にハーバード大学でMBA取得。テスラモーターズ入社し、「モデルS」やテスラ工場の立ち上げを担当した。

文=藤吉雅春 写真=小田駿一

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