マンハッタンのミッドタウンからハドソン川を挟んだ対岸のニュージャージー州ホーボーケンに、いまアメリカで最も注目を浴びている大学がある。1870年創立の「スティーブンス工科大学」だ。
スティーブンスへの入学を志望する学生は年々増え、合格率は2006年の54%から10年間で39%まで低下。卒業生の9割以上が就職または進学しており、就職先にはグーグルからゴールドマン・サックスまで、超人気企業の名前がずらりと並ぶ。
前学長の不祥事により財政も士気も悲惨な状態だったスティーブンスに、現学長のナリマン・ファヴァルディンが着任したのは11年のこと。イラン生まれの同学長は電気工学を専門とし、メリーランド大学に27年間在職しながら、アメリカで7件の特許を取得し、150本の論文を出したほか、2社を起業している。
授業料収入に頼る大学にとって、成功のカギを握るのは新入生の獲得だ。理数系大学間の競争が激化するなか、ファヴァルディンがとった戦略は、社会から遊離した学問を提供するのではなく、産業界に必要とされる技術を学生に徹底的に叩き込むことだった。
「将来、機械は人間よりも大きな役割を果たすようになるかもしれない。我が校は、この潮流の最前線に立っていたいと考えています」とファヴァルディンは話す。
スティーブンスで最も人気の高い専攻の一つが、数量ファイナンスだ。そのカリキュラムを作ったジョージ・カルフーンは、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールで博士号を取得し、25年にわたり上場企業を経営した経験を持つ。
彼がまず手掛けたのは、金融業界を中心に約25社を回り、「新入社員に何のスキルを求めているか?」と聞き取り調査をすることだ。こうして、プログラミングと数学を中心とする現在のカリキュラムが生まれた。カルフーンはこう話す。
「学術界はマーケットに耳を傾け、商品開発と顧客満足という観点で学生を育成するということに慣れていないのです」