ビジネス

2018.02.23

住友商事社長が語る、これからの「商社」のあり方

住友商事 代表取締役社長 中村邦晴


実はプエルトリコに駐在して自動車販売会社の社長を務めていたころにこんな体験をしている。地域に何か還元できないかとディーラーと相談して、車が一台売れるごとに地元の精神障害者支援施設へ数ドルの寄付をした。

「非常に喜んでくださり、これが企業の責任だと感じました。ただ、寄付の額は事業のスケールに比べればずっと小さい。ならば事業そのものが社会に貢献するものであればいいと考えるようになりました」

そうした思いもあって17年4月にマテリアリティを定めた。マテリアリティとは、最優先で取り組むべき社会課題。「地球環境との共生」「地域と産業の発展への貢献」など6つのテーマが設定された。

もともと住商はこれらのテーマを意識してきた。例えばマダガスカルのニッケル事業は、同国にとっても非常に大きなプロジェクトで、製品の輸出額はマダガスカル輸出総額の2割強を占め、多くの雇用も生みだした。森の中に住むマダガスカル固有のキツネザルが開発により分断された森林間を行き来できるよう、道路の上に木枝を渡して専用の橋をつくった。

鉱山は約30年で閉山するが、将来にわたる持続的な発展を見すえて、従業員への技術指導や地域住民への農業訓練等を実施している。

「マテリアリティ策定は、これまで大事にしてきた価値観を改めてわかりやすく明文化した形だ。もちろんお題目で終わらせるつもりはない。

稟議のプロセスは、最初にマテリアリティに合致しているかどうかを問うことにしました。第一関門を突破できない案件は、どんなに利益が出る事業でもやりません」

中村の任期は残りわずかだが、視線は未来を向いている。

「過去最高益を見込んで定量的な面は実を結んだといえるかもしれません。しかし、定性的なものが浸透して花開くのは、まだこれから。種まきをしっかりと続けて、次にバトンタッチしていきます」


なかむら・くにはる◎1950年大阪生まれ。大阪大学卒業後、74年住友商事入社。自動車部門でアメリカ、プエルトリコに駐在。2007年常務執行役員経営企画部長、09年専務執行役員資源・化学品事業部門長、12年取締役副社長に就任。同年6月から現職。

文=村上 敬 写真=帆足宗洋

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