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2018.02.24 15:00

日本ワインの発展を支える作り手たちの情熱

1923年創業の老舗、グレイスワインにて

1923年創業の老舗、グレイスワインにて

日本のワインは、国内での人気の高まりも後押しし、順調に成長している。品質も向上中。それを支えているのが、作り手たちの努力と情熱だ。

1月末、山梨のワイン産地を訪問した。今回は、中央葡萄酒とキスヴィン・ワイナリーの個性豊かな二人の醸造家を紹介したい。二人はともに、若い頃に海外に出た経験を持つ。そして、長期的な視野を持ちながら、世界で学んだ知識や技術を日本特有のブドウ品種や栽培環境に応用し、ブドウ栽培とワイン作りに取り組んでいる。

世界で学んだ醸造家、三澤彩奈さんの挑戦

中央葡萄酒・グレイスワインは、1923年創業の老舗だ。日本のワイン、特に日本固有のブドウ品種である甲州のワインの可能性を信じ、世界に広めるべく、海外での活動にも力を入れている。欧州、アジア、オセアニア、世界20カ国に輸出し、国際的なワインコンクールでも賞を受賞するなど、海外でも高い評価を得ている。

現在は、4代目のオーナー、三澤茂計社長の長女である三澤彩奈さんが醸造責任者を務める。ボルドー大学の巨匠、故デュブルデュー教授との甲州ワイン作りの経験が、彩奈さんをワインの世界に引き込んだ。その後、ボルドー大学や南アフリカのワイン産地に留学し、ニュージーランド、オーストラリア、チリ、アルゼンチンで研修を積んでいる。

グレイスワインでは、スタンダードな「グレイス甲州」キュヴェのほか、いくつかの単一畑で、甲州ブドウからワインを作る。「グレイス甲州」は、開けたてから、リンゴや洋ナシといったフレッシュなフルーツの香りが感じられ、フルーツと酸味のバランスもよく、食事にも合わせやすい辛口ワイン。

グレイスワインの壮大なプロジェクトが、山梨県北杜市明野町にある自社農園「三澤農場」だ。日本一の日照量と雨の少なさを誇る農場で、2002年から、カベルネ・ソーヴィニョンなど欧州系のブドウ品種の垣根栽培を始めた。2005年には甲州ブドウの垣根栽培に挑戦している。

甲州種は、かつては生食が中心で、その強い樹勢をコントロールし、また地面から離して風通しを良くするため、棚式で仕立てるのが一般的だ。そして、収穫時の糖度が上がりにくく、発酵後のアルコール度数を上げるために、発酵前に補糖をするのも珍しくない。垣根栽培は、甲州種が持つブドウ自体の力で、熟成に耐え得るポテンシャルの高いワインを作ることを目標に始め、収量を下げ、より凝縮されたブドウを収穫するのが狙いだ。

新しい挑戦には、想像もつかない苦労と努力が伴う。結果が未知数の試みであったが、2012年あたりから、酸を維持しながらも、糖度20度を超える甲州ブドウが収穫できるようになり、一つ一つの実がより小粒になり、味わいに凝縮度が増してきたと言う。今後、ブドウの木が樹齢を重ねることにより、さらに凝縮度の高いブドウが収穫できるものと期待する。

この農場の甲州種から作ったワインが、「キュヴェ三澤・明野甲州」。イギリスのワイン雑誌「デキャンタ―」の国際的なコンクールで、4年連続で賞を獲り、昨年も、98点の高得点で金賞を獲るという快挙を成し遂げている。


醸造家の三澤彩奈さん

キスヴィン・ワイナリーの醸造家、斎藤まゆさんが目指す先

「実際に出会った人や、家族や仲間、憧れの人といった、生身の人の姿を思い浮かべて、その人たちに向けてワインを作ること」。キスヴィン・ワイナリーの醸造責任者である斎藤まゆさんが、ワインを作る上で大事にしていることである。

斎藤さんは、カリフォルニア大学フレズノ校でワイン醸造を学び、ブルゴーニュでワイン作りを経験してから帰国。2013年に醸造を開始したキスヴィン・ワイナリーに参画した。

美味しいワインは、美味しいブドウから。高品質なブドウを、確かな腕前の斎藤さんが、ワインに仕上げる。醸造にも、随所に斎藤さんのこだわりが見られる。

例えば、甲州種は、熟して果皮が色付くにつれて苦みも伴うため、キスヴィンでは、「エメラルド甲州」と呼ぶように、ブドウが緑色のままで熟すよう、ブドウの房、ひとつひとつに手作業で傘をかけて日光を遮る。これにより、ブドウの房の温度が上がりにくくなり、糖度が十分に高くなるまで収穫を待っても、ブドウの酸が保たれるという。

甲州種のほかに、シャルドネやピノ・ノワールなど、国際品種にも力を入れる。これには、日本のワインがもっと世界的に認知され高く評価されるためには、「甲州品種以外の国際品種を世界と同レベルで作れるようになることが必要」という斎藤さんの思いがある。

既に高評価を得ているが、試行錯誤を続け、高品質なワインを作るための努力を続ける。斎藤さんの当面の目標は、「ワイン作りを学んだ人たちにワインを届けるため、アメリカとフランスでワインを売るようになること」だ。


キスヴィン・ワイナリーの醸造責任者、斎藤まゆさん

山梨のワイン産地は、首都圏から近く、気軽に行ける。観光客の訪問を歓迎しているワイナリーも多い。美味しいワインに加えて、温泉も郷土料理も楽しめる、お勧めの観光地だ。

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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文・写真=島悠里

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