2015年以降のロゴデザインではどのようなことが起きているか?
「今のロゴデザインのトレンドは何か?」と尋ねられたとき、「フラット化」を挙げています。フラット・デザインはアップルのiOS7(2013)に代表されるような、物質的なテクスチャや陰影を取り除いたアプローチのことを指しますが、この流れはアプリ/Webのみならず、ロゴの世界でも盛り上がりをみせています。
例えばクレジットカード大手MasterCardが2016年に導入した新しいロゴは、これまで用いられてきた赤とオレンジの円の要素はそのままに、シンプルな形状へと生まれ変わりました。2014年には、VISAやPayPalも同様のアプローチでロゴを新しくしています。自動車メーカーのAudiやOpelが2017年に実施したCI刷新においても、車のエンブレムを模した立体表現を廃しフラット・デザインを採用しています。
金融と自動車、2つの大きな市場で起きているこの事象が、モバイルデバイスの影響を受けていることは言うまでもありません。モバイルデバイスが普及するまで、私たちの生活は現実空間を前提にデザインされ、ロゴもこの枠組みのなかで設計されてきました。クレジットカード、お店の入り口、郊外に立つ看板、フロントグリルなどで見栄えるロゴデザインです。
しかし、この数年で私たちの生活は大きく変化しています。クレジットカードのロゴは店頭だけではなく、スマートフォンの5インチの画面で支払いをするときに目にすることが増えました。自動車の車載システムのインターフェースはデジタルに置き換わりIoT化が進んでいます。今やスマートフォンのない暮らしを想像するのは難しく、この「時代性」は「普遍性」の一部となりながら他の市場にも浸透していくでしょう。
Rudmer Zwerver / shutterstock.com
モバイルデバイスによるパラダイムシフトは、2020年代以降のロゴデザインにとっても示唆に富んだできごとです。
たとえば「サイズ」はセンチ単位で設計されメートルの距離感で見られるものから、ピクセルの世界を前提としたものに置き換えられていくでしょう。「カラー」はCMYKベースからRGBベースとなり、隣接する他のアイコンと区別されることが求められるでしょう。他にも非言語的であることや、動的であることなど、「フラット化」には2000年代以降のWebデザインにおけるあらゆるトレンドが集約されていると言えます。
もう1つ重要な点として、どれだけデジタル化やスマートデバイス化が進んでも、私たちは現実空間に生きているということです。ここ数年、アプリ発のプロダクトがオフラインへと展開する事例が増えてきましたが、ピクセルでの使用だけが前提として作られたために、現実の空間に飛び出すと違和感のあるロゴもみられます。オフライン/オンラインの認識があいまいになってゆく世界で、どのような環境下でも成立するデザインが重要になっていくでしょう。
「普遍性」と「時代性」はリサーチを通して捉えることができ、ブランドの土台としての耐久性と展開性に大きく影響することから私はこの過程を大切にしています。次回はこの2つの原則を踏まえて、近年のロゴ刷新にはどのような背景が存在するのかをお話する予定です。
タカヤ・オオタの『なぜ、今「CIデザイン」なのか?』
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