──リンクトインはこれまでも、ダイレクトリクルーティングのサービスを世界規模で提供してきました。ところが、日本ではユーザーが思うように増えていないように見えます。そこはどう変えていくのでしょうか?
ダイレクトリクルーティングというのは、どちらかというとわれわれがBtoBの領域で提供してきたものであって、日本展開のカギを握るのは、むしろBtoCの部分だと思っています。
リンクトインのタイムラインには日々、質の高いビジネス関連のニュースが流れてきます。そこから自分のビジネスに関わる情報を効率よく取得し、それを元に何かいいアイデアを思いついたら、チャットを使って連絡を取り、あるいは新たなビジネスパートナーを検索して探す。海外のユーザーの間では、すでにこうした使い方が一般的になっています。
日本でも、ビジネスをすべて自社で完結するのは難しくなってきており、オープンイノベーションということが盛んに言われるようになりました。そうした状況とリンクトインが得意とするところは、非常に合っていると思うんですよね。
──ただ、日本では現状、まさにそうしたことがフェイスブックで行われていると思うのですが?
確かに、タイムラインに流れてきた投稿を起点に、とりあえずフェイスブック メッセンジャーで連絡を取って、そこから新しいビジネスをということを、ぼくの周りでも皆さんやっていますね。
でも、そこの部分というのは、そもそも本来はリンクトインが得意な領域なんですよ。先ほども言ったように、世界ではすでにそうした使われ方がされていて。フェイスブックはプライベートで、という使い分けがされているんです。
フェイスブックのぼくのタイムラインには、夜になるとラーメンの写真とかしか出てこない。それが朝になるとビジネスニュースに変わる。昼はそのごった煮という感じです。ぼくが言いたいのは、はたしてそれが本当にビジネスに最適なのか? ということです。
もちろん、フェイスブックのコメント欄で仲のいい人とワチャワチャすることにより、リレーションシップが深まるという、そういうのもまああっていいとは思います。でも、あれは言ってみれば飲み会の延長ですよね。飲みニケーションのオンライン化。
それとは別に、デイタイムっていうのは、なるべく効率的にいろんなビジネスを作っていく時間のはずじゃないですか。しかも、そっちの時間の方が圧倒的に長い。だとしたらやっぱり、デイタイムにはビジネスに特化したSNSを使った方がいいんじゃないかと思うんです。もちろん、いきなりすべてがスイッチするなんて思ってないですよ。なので、日本においては、しばらくはフェイスブックとの併用になるんだろうとは思います。
かつてフェイスブックの日本展開を率いた児玉太郎はヤフーの元同僚だ。児玉は当初難しいと言われた「実名のSNS」を日本で広めることに成功した。そのおかげで、村上はリンクトイン再起動の可能性を探ることができているという。
──とはいえしつこいようですが、現状は皆、フェイスブックでそれをやっているわけじゃないですか。だからそうした棲み分けを実現するには、ビジネス専用のものがあることが大事だと、どうにかして伝える必要があると思うんです。そのためには何が大事になると考えていますか?
そうですね。まずはやっぱり、「ビジネスのためのSNS」というこれまで日本になかった新しいカテゴリをつくる必要があるんで、この志に賛同できる人は、誰であれ一緒にやりたいと思っているんです。例えばSansanの「Eight」とはもちろん競合する部分があるのは確かなんですけど、この意識は多分一致していると思うので、ぜひ一緒にやっていきたいですね。
振り返れば、フェイスブックとリンクトインが日本に来たのはどちらも2010年ごろで、ほぼ同じタイミングだったんですよね。当時の日本には、2ちゃんねるに代表される匿名文化というのがあって、「グローバルの実名SNSであるフェイスブックは失敗する」って、みんなが口を揃えて言ってたじゃないですか。「誰も実名なんて出さないよ」って。
でも、現状は見ての通りです。だからあのタイミングでひとつ、文化が変わったんですよね。フェイスブックが普及したことによって、地ならしが進んだという肌感があります。それが済んでなかった5年前に同じオファーを受けていたら、ぼくはやっぱりリンクトインには来なかったと思うんですよね。
あれで日本人がグローバル標準のSNSの使い方っていうものを学び、実名をオンラインに出すということも学んだ。だから今度は、グローバル標準のビジネスSNSの使い方を日本人が学んでいくフェーズなんじゃないかと思っていて。
あれだけ「日本の匿名文化は変わらない」って言われていたのにそれが変わったというのは、やっぱりこの領域は、結局のところグローバルのプラットフォームの方に寄っていくのだろうと思うんです。だとすると、リンクトインは日本以外だと大成功してますんで、そっちに寄っていくはずだというふうに考えたんですね。