「とりあえず飲み会」の人脈づくりに物申す|リンクトイン 村上臣

村上 臣/リンクトイン 日本法人代表


──なるほど。それと比較すると、日本の場合は東京に一極集中しているから、そのニーズが少ないように見えますね。

そう。それに、仮に大阪や京都とかにいても、大事な案件だと思えば、2時間くらいかけて新幹線で東京まで来て、オフラインで挨拶することが美徳とされる文化もありますよね。「すぐに行きます!」「おお、わざわざご足労いただきまして」みたいな。

ただ、「働き方改革」が進んで、いろいろな人といろいろな働き方をするようになると、当然リモートの機会が増えてくると思うので、ひとつのユースケースとして、リンクトインが合っているというふうになるんじゃないかな、と。

リンクトインはマイクロソフトグループであり、そのマイクロソフトのツールというのもどんどんリモートワークに寄せていっているので、この両輪というのはすごくワークするんじゃないかなと思ってます。もっとも、そうは言っても日米の文化的な違いは大きいので、繰り返しますが、簡単ではないと思ってますよ。例えば欧米の「ネットワーキング」と、日本でいう「人脈」という言葉も、若干コンセプトが違う気がするんですよね。

──興味深いです。どういうことでしょうか?

欧米型のネットワーキングというのは、前提として、その人が前職で何をしていたかとか、どんなことを成し遂げた人なのかということが一目瞭然なので、そこからどんどん話を広げていって、新しい大きなビジネスを作っていくという形です。先ほど、アメリカでは実際に会うよりもオンラインでのやり取りが先になるという話をしましたが、これも、お互いの仕事の実績が明白だからこそ成り立つことなんです。

ところが、日本企業の場合は、その人個人が仕事で何を成し遂げたのかっていうのがわかりにくいじゃないですか。だからなのか、日本でいう人脈って、どちらかというとパーソナリティありきというところが強くて。その上で実際に仕事をしてみて、ようやく継続的に一緒に何かできそうな人なのかがわかる、というプロセスのような気がします。

──確かにこうしたメディアをやっていても、日本型の大企業の場合は、「このプロダクトを作った人を取材したい」と思っても見えてこない部分が多いです。

そうですよね。日本の会社は、従業員の顔を表に出さない。出すのは一部のスポークスマンやPRの人だけで、作り手の顔が見えないっていうところがありますよね。それだと、どうしても会社が主語になってしまう。だから人脈作りをするというと、「とりあえず飲み会」になってしまうんだろうと思うんです。

でも、いくら飲んだって、ビジネスの面で信頼できるかどうかは、結局のところ仕事をしてみなきゃわからないんですから。

──「飲みにケーションのフェイスブック」と「ビジネス専用のリンクトイン」の違いという、先ほどのお話にも通じますね。

会社が従業員を表に出さない文化っていうのは非常に昭和的で、終身雇用にコミットする代わりに、引き抜かれるリスクをなるべく避けたいという発想なんですよね。「年金まで約束しているのに、お前は会社に後ろ足で砂をかけて去るつもりか?」っていう。

まあそういう心情になるのはわかるんですけど、でも、さすがにもうそういう時代じゃないですよね? もはや会社は終身雇用にコミットなんてできないし、実際していませんよ。むしろこのソーシャル全盛の時代ってことでいうと、「箱から人へ」っていうのが流れじゃないですか。いまやスーパーに行けば、野菜だってそうなんですから。「有機野菜、私が作りました」って生産者の顔が貼ってある。そっちの方が単価が高く売れてるわけですからね。会社のプロモーションだって変わっていくはずですよ。

......というような流れは間違いなくきていて、徐々に変わってきているので、あとはそれをちゃんと進めていくってことだけだと思っています。


村上臣◎リンクトイン カントリーマネージャー。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。その後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。一度退職した後、12年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。17年11月にリンクトインの日本代表に就任。複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めている。

聞き手=丸山裕貴(BNL)、九法崇雄(Forbes JAPAN) 文=鈴木陸夫 写真=西田香織

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