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ニューススイートとForbes JAPANが、伝える力をテーマに各界で活躍する著名人にインタビュー、その第2回。声のプロが伝えるのは感動。そのために必要なことがある。声の背景には状況に応じて用意周到に練られた準備があるのだ。第一線で声優界を牽引し続ける古谷徹の考える声が持つ力とは何か。


"声"を使って伝えるのはセリフではなく、感動

声優の仕事を始めてからもう、50年になります。始めのうちはそれこそ、現実では考えられない宇宙空間やロボットが跋扈(ばっこ)する世界に入り込めることに、夢中になっていました。そして、主役声優としてたくさんの役柄を演じているうちに、自分はこの仕事で普通の生活では考えられない多くの人生を積み重ねているんだと考えるようになりました。

役づくりは凝る方なので、一本の仕事が終わると人生経験をまたひとつ積み重ねたような気になります。例えばタイムマシーンでもなければ実現できない、青春時代特有の"ああすれば良かった"という心残りを、この仕事なら、別の作品でやり直すことができるんです。

声優はアニメーション作品のキャラクターの声をあてたり、洋画の吹き替えをする仕事ですが、その核となっているのは"感動を伝えること"なんだと思っています。そのために声を使って、感情を表現する。ともすると台本通りにセリフをしっかりはめていく職人的技術ばかりが注目されますが、それよりも大切なのが感情。極端に言えば、セリフの細かい語尾なんてどうでもいいんです。とにかくキャラクターの声に感情を乗せていく。そこからしか感動は生まれないんです。

もちろんセリフの中に重要なキーワードもあります。話の内容の核となる言葉、それはしっかり聞き取れるように発音します。見ている人、聞いている人に重要な言葉が何かわかるように発声しなくてはいけません。
自分が出た作品はもちろん、しっかり観ます。見直せば、もっとこうしたらより伝わるんじゃないかと思いつく。そして次の作品までにブラッシュアップしておく。その繰り返しで50年やってきました。ただ正解というものはないので、自分のセンスをひたすら信じて、変えていくしかないんですが。

声による伝え方の作法 〜声優とナレーションの違い〜

アニメの声優と同時に、ナレーションの仕事もしています。「カーグラフィックTV」はもう32年になります。「クローズアップ現代+」は2016年から。報道番組なので、いろいろな社会的なテーマを取り上げますから、最近は自然と社会問題のニュースを意識するようになりました。

声優の仕事は感情をたっぷりとセリフに込めますが、ナレーションの仕事はむしろ感情を抑えることが大切です。事実をはっきりと伝えることが第一にくる。もちろん抑えると言っても、完全に棒読みになるわけではありません。「カーグラフィックTV」なら、そのクルマのもつ魅力を伝えるために、ラグジュアリーな車種ならばテンポをゆったりと余裕のある声色で伝える、スポーツ車ならば、シャープにエッジの効いた声で語っていくなど、そういう工夫はしているんですね。

「クローズアップ現代+」を担当するようになってからは、取り上げるであろう社会問題を意識して、事前に情報を仕入れておきます。いざ打ち合わせの段階でテーマを初めて聞くのでは、すっと頭に入ってきませんから、準備しておくんです。何も知らない人が短い期間で付け焼き刃的に語っても、良いナレーションには決してなりません。

下調べという点では、声優の場合も同様です。役づくりが必要なので、しっかり情報を事前に調べ上げます。そして台本の最初のページに、主人公の特徴から始まって、取り巻く状況や人間関係まで、かなり克明に書いておきます。

どちらにしてもしっかりと感動を伝えるために準備は大切です。ビジネスの現場でも、大事なプレゼンテーションを行うのなら、周到な下準備が重要でしょう? 僕がもしその立場になったなら、しっかりと調べた上で重要なキーワードをリストアップしますね。そして、とにかくその言葉を伝えることに専念する。大事な言葉だとわかるように、一拍置いて発声する、ボリュームをそこだけ大きくするなどの工夫をします。普通に話すよりも、格段に伝わりやすさが違ってくるはずです。

Promoted by ソニー text by Ryoichi Shimizu | photographs by Shuji Goto

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