アップルのトー・ミレン副社長(マーケティングコミュニケーション担当)は米広告専門誌アドウィークに対し、次のように述べた。
「幼い息子と駅のプラットフォームで3分間しか一緒に過ごせない母の実話は、私たち全員の心を打った。ストーリーの展開については、数週間かけて共同で取り組んだ。ピーターは、リアルタイムのカウントダウンと、掛け算の九九を暗唱する息子の姿という、2つの素晴らしい要素をストーリーに組み込んだ。カウントダウンにより緊迫感が生まれ、掛け算の暗唱により、母親を感心させたいと常に願う少年と母親との関係性が見えてくる」
アップルのほかにも、広告に映画的なアプローチを採用し、高品質なコンテンツを制作したブランドは増えている。こうしたコンテンツは、押し売り的な販売促進を避ける代わりに、顧客との感情的なつながりをもたらす強力な物語を展開して人間的な関わりを築こうとしている。長めのストーリーテリング広告としては、米ホテル大手のマリオット・インターナショナルが制作した「Two Bellmen(2人のベルマン)」がよく挙がる。コミュニケーションのモデルが干渉型から対話型へと変化するにつれ、この手の宣伝手法は意義を増し、人々の関心を捉えている。
30秒枠の広告がなくなることはないが、携帯端末の普及に押され、ブランドはさまざまな動画形態を試すようになっている。視聴者の集中力が続く時間が短くなるにつれて、複数の広告媒体に適応できる短い映像広告は急速に普及している。それでも、ブランド構築のツールとしては長めの映像が効果的だ。プロダクトプレースメントをさりげない程度に抑えつつ、うまく構成されたストーリーに視聴者を完全に引き込むことで、ブランドにとっては全く新たな宣伝の機会となる。
VRなどの新たな技術や、ネット上での動画視聴時間の増加を受けて、長い形式の広告映像は、超情報化時代に消費者の関心を引く強力なツールとなるだろう。