男性が簡単にできる、ダイバーシティ推進のためのひとつのこと

ネナ・ストイコビッチ IFC(国際金融公社)副総裁

世界銀行グループのひとつであり、途上国の民間セクター支援を行っている国際金融公社(以下、IFC)。そのひとつの取り組みに、女性のエンパワーメントがある。

日本で行われた国際会議WAW!(World Assembly for Women)に、パネリストとして登壇したIFC副総裁ネナ・ストイコビッチ氏に、女性のキャリアについて話を聞いた。


私はセルビア出身で、まだ戦争中であった1995年に同国を出ました。当時、私はコンサルティング会社で職を得ていたので、自国でも将来性のあるキャリアを築けると思っていましたが、私自身と将来の家族のことを考えたら、国を出る方が賢明だと判断したのでした。

そのきっかけとなったのは、非常に評判の高いロンドンのビジネススクールに入学できたことです。そこでMBAを取得したため、東欧出身である私にも西欧で仕事を見つけやすくなりました。そして、世界銀行グループの面接を受けることができたのは、世銀がダイバーシティを追求していたからであり、女性のエンパワーメントという観点から、東欧のトラブルを抱えた国出身の、更に女性である私が候補になれたのではないでしょうか。

私は22年前に一番低いランクの専門職員としてIFCに入社し、昇進してきました。どのようにしたかというと、仕事をひとつずつきちんとこなして、ベストを尽くした、それだけです。IFCは女性を含む全職員に対し、本部のワシントン以外の途上国の現地事務所で働くことを奨励しており、私も、イスタンブールとモスクワを含むヨーロッパで7年間働きました。

現地事務所では、本部にいたらできなかったような仕事をさせて頂きましたが、それによって私が注目されることになったのかもしれません。約6年前には、副総裁という最高ランクの役員職につくという幸運に恵まれ、その後ずっとIFCの役員をしています。

「成功」体験が女性を輝かせる

私は、思い切って飛び出したことで、想像もできなかった素晴らしい世界に踏み出すことができ、同時に自身に対する「自信」がどんどん強くなっていきました。成功は、男性にとってもそうですが、女性にとっては非常に重要です。

他方、私から見ると、男性は、何か失敗したりしても、まるで何もなかったかのように飄々と前に進んでいける人が多いように思いますが、女性は違います。何をしてしまったのか、何を言ってしまったのか……くよくよしてしまい、立ち止まってしまう。でも人生は百メートル走ではなく、マラソンです。だから、目先のことにとらわれず、自分がやってきたことを一つ一つきちんと見つめ直してみると、自信を得ることができます。

今となっては私も男性のように失敗を処理できるようになりましたが、その境地に至るのは簡単なことではなく、約30年という時間がかかりました。働き、キャリアを築いていく中で、やっとそのレベルに到達できたという感じです。



リーダーとして必要なこと


リーダーになるには、いわゆる「よいネットワーク(人脈)」や「よいメンター(先輩)」が必要だとされますが、私は人脈作りを熱心にやった方ではありません。一般的に、男性の方が女性よりも、食事やお茶を一緒にしたりして広く人脈を築く傾向があるようです。

私は早く仕事を終わらせて帰宅し、夜は子供たちや夫と一緒にいたいし、出張も最小限にしたいので、人脈づくりをしている時間があまりありませんね。ですから、「人脈づくりのための人脈」でなく「仕事をするための人脈」を重視しています。

リーダーとして、これまで最も難しかった経験は、大きな組織改編の際に、それまで居心地のよかったところから新しいところへとステップアップをしなくてはならなかったことかもしれません。それまでベテランの域に達していたポジションから離されて、再度スタートラインから始めるのは簡単なことではありません。世界銀行グループの総裁から、グループ内で新しい組織を設立することを指示されて異動したときの私がそうでした。

それまで私はIFCの民間部門の雰囲気やメンタリティーに慣れていて、人脈もあり、仕事にやりがいもあって居心地がよかったのですが、この異動で、全く別の場所のトップに立ち新しいことを始めなければならなくなったのです。成功するかどうかもわからない。その時は心身ともにとても緊張しました。それが一番大変だと感じたときですね。それが現在うまくいっていることは嬉しく思っています。
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構成=星野陽子 写真=寺内暁

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