ビジネス

2018.02.20

行動経済学が解き明かす「過労死」2つの真因|大阪大学・安田洋祐

大阪大学准教授、安田洋祐




日本の労働市場は、これから徐々に上向いていく

岩佐:なんだか暗い話が続きましたが、日本の労働市場はこれからどうなるのでしょうか。

安田:僕はかなり明るい見通しを持っています。ワークライフバランスの小室淑恵社長によると、彼女たちがコンサルティングしたある会社で、1時間あたりのパフォーマンスが高い部署を厚遇する報酬体系に変えたところ、大きな成果が出たそうです。

岩佐:生産量ではなく、生産性を基準にしたということですね。

安田:意外なことに、ルールを変えたとたん、部署単位で誰がどれだけパフォーマンスを上げたかが自発的に見える化されるようになったそうです。その結果、フルタイムで働いていない人の時間当たり生産性が高いことが明らかになりました。

生産量という絶対値で評価する職場、つまり従来の基準では評価が低かった人たちの頑張りが、この見える化によって明らかになったわけです。今後は、採用の際にもそうした時間当たりの生産性が高い人が求められるようになるかもしれません。

岩佐:良いことづくめの改革ですね。では、これから日本の労働環境は改善していくのでしょうか。

安田:僕はそう考えています。最近は有効求人倍率が1.5を超え、労働市場がかつてないほどの売り手市場になってきて、イグジットに対するリスクは随分と低くなりました。数年前までブラック体質で叩かれていた飲食チェーン店などの問題が一気に解決した理由は実は単純で、安い時給で酷使していたパートが辞めて他に移れるようになったからです。


岩佐:そうですね。労働市場の自浄作用を改めて実感しました。

安田:市場競争というと、弱肉強食で労働者は搾取されるようなイメージが根強いかもしれませんが、まさにこの市場や資本の力、競争原理によってブラック体質が淘汰されたというのは重要なポイントだと思います。ブラックな職場を続けていると従業員をホワイトな職場に引き抜かれるから、労働環境を変えざるを得なくなったわけですね。特にいまは、パートタイムの時給が激しいペースで上がっており、この流れが続けば正規雇用の賃金も上昇するはずです。

岩佐:かなり明るい見込みをされているんですね。

安田:明るい見通しをするもう一つの理由は、AI(人工知能)です。人が担っていた仕事がAIによって奪われるという説もありますが、少なくとも日本については当分心配しなくていいと思っています。先ほどもお話したように、日本は当分人手が足りないから、仮にAIに取って代わられても確実に他の就職先があるからです。

一方、人手が足りていないサービス業の補助など、AIやロボットがもたらすメリットは無数にあります。これによって労働集約的だった職場が少しずつ資本集約的になり、一人当たりが生み出す価値も増えるはず。すると、日本の課題であった低い労働生産性がいよいよ上昇し始めることになります。

AIの活躍で労働者一人当たりの付加価値が高まり、労働の価値も上がる。それによってイグジットとボイスがやりやすくなるので、労働者を引き留めるために人件費が高くなり、その高い賃金を嫌って資本にお金が投下されるようになる。資本設備が充実すると労働生産性がますます上がり、労働の価値がさらに高まる。そんな好循環が、いま始まろうとしているのではないでしょうか。そうなれば、働き方改革が目指しているように、日本の豊かさが劇的に改善するでしょうね。


第4回では、社会全体の持続性を重視する「公益資本主義」に言及。そのカギは意外なところにあると安田は語る(第4回に続く)。

編集=フォーブス ジャパン編集部 写真=松本昇大

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事