ビジネス

2018.02.22

なぜ、ラグジュアリービジネスは日本から育ちにくいのか

Photo by Getty Images

先日2017年度のLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの決算が発表された。売上高は、約5兆7550億円で前年比13%増、営業利益は約1兆1200億円で前年比18%増、純利益は約6920億円で前年比28.8%増と、増収増益の好業績となった。

特筆すべきは営業利益率で約20%と、10%を超える企業すら少ない日本のアパレル業界と比較すると、2倍以上の収益性を誇っている。

同業他社のエルメスに至っては、営業利益率は30%を超えており日本企業との収益性の差は顕著だ。このようにラグジュアリービジネスは総じて収益性が高く魅力的なビジネスだが、これまで日本初でラグジュアリーブランドとして成功した例は殆どない(例外としてKENZOがあるが、LVMHによる再生案件なのでケースとしては取り上げない)。

ユニクロや良品計画のようにマス市場ではグローバル展開に成功している企業も出てきてはいるものの、ラグジュアリーではなぜ難しいのか。背景には、ラグジュアリービジネスに特徴的な2つのボトルネックがある。

曖昧な
クリエイティブと経営の独立

まず第一のボトルネックが、ラグジュアリーのビジネスモデルに必要な経営のピースが不足していることにある。ラグジュアリーとアクセシブルラグジュアリー(ラグジュアリーとミドルアッパーの間)のビジネスモデルとは、ストーリーやクリエイティビティをベースとしたいわゆる“ブランド価値”を最大化することで高い収益を生むモデルである。ビジネスモデルとしての重要なポイントは、カテゴリー拡大(ライフスタイル化)によるブランド力と収益性の両立にある。

一般的にラグジュアリーブランドでは、靴やバッグといったアクセサリーから香水、アパレル、ひいては時計、宝飾品、インテリアまで、アイテムカテゴリーを増やすことで世界観・ブランド力を強化すると同時に、多様な収益性のアイテムをミックスさせることで高収益の体質を実現する。

例えば、バッグは80~90%強の粗利を稼ぐキャッシュカウ(金のなる木)である一方、アパレルはロスが大きく粗利は40%以下に留まるものの、ブランドの世界観を伝えるためにはアパレルラインによるランウェイショーは重要となる。

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シャネル 18年春夏コレクションのランウェイショー

米国系のアクセシブルラグジュアリーの場合この傾向は更に顕著で、一部には生産拠点をアジアに移して低コスト化を進めることで、バッグ類の粗利が95%に達しているブランドさえある。このようにラグジュアリービジネスでは、多岐に渡るカテゴリーのプロフィットマネジメントとクリエイティブを高度に両立する必要があるため、欧米のブランドでは経営管理とクリエイティブは明確に役割分担され運営されるのが普通である。

経営管理は、数値に強くラグジュアリービジネスに造詣が深い経営人材によってなされており、そのための人材プールや育成システムが整っている。一方日本では、ラグジュアリービジネスに移行できそうなデザイナーブランドは、デザイナーが経営とクリエイティブの両面を見ているケースが多く、欧米のブランドのようなビジネスモデルの拡張には至らず、いつまでもアパレルがビジネスの主軸のままであることが多い。

また、経営とクリエイティブの役割分担も曖昧で、外からプロの経営人材も迎え入れ難いという悩みもある。その理由は、往々にしてデザイナーという特殊な立場を経営的な視点からコントロールできる人材が少ないゆえに、様々な意思決定においてデザイナーの意見が色濃く反映されてしまうからではないかと考えられる。
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文=福田 稔

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