ビジネス

2018.02.22

なぜ、ラグジュアリービジネスは日本から育ちにくいのか

Photo by Getty Images


第二のボトルネックは、ラグジュアリーブランドとしてのルーツ、正統性にある。上述したようにラグジュアリーブランドでは、価格の高さを証明するためのブランドのストーリー、存在意義や正統性は非常に重要だ。

ルイ・ヴィトンやシャネルをはじめ、一流メゾンと言われるブランドには長い歴史とストーリーがある。往々にしてそのストーリーは、ファッションや衣服の歴史と密接に関わっている。女性をコルセットから解放したココ・シャネルのストーリーなどはその典型だ。ところが、日本のブランドはこのストーリーに弱い。

そもそも日本は洋服ではなく和服の国であり、その日本が欧米ブランドを真似たラグジュアリーを発しても「Why Japan?」となってしまうのである。米国のラルフ・ローレンでさえ、価格帯をハイエンドのラグジュアリーブランドに位置付けるべく時計やインテリアなどカテゴリー拡大を図っているが、正直うまく行っているとは言い難い。それくらい、ラグジュアリーブランドとしての価格を正当化するブランド価値を作るのは簡単ではないのだ。

余談になるが、ハイエンドのラグジュアリーではなく、アクセシブルラグジュアリーの価格帯まで降りてくると少し話は変わっている。ストーリーが限定的でもデザイナーのクリエイティビティで勝負ができる。また、裏原にルーツを持つストリートラグジュアリーのように、日本がオリジンであると欧米でも認知されている領域もある。

サンローランの復活を担い、19年春夏シーズンからセリーヌを手がけるエディ・スリマンのように、アンダーカバーやア・ベイシング・エイプといった日本のストリートカルチャーに影響を受けているデザイナーは多く、この領域は今後日本発の正統派ブランドの成長が期待できる。

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アンダーカバー 18年春夏コレクションのショー

このような中で、日本発のラグジュアリーブランドとして上述した2つのボトルネックを打破できるかもしれないケースがある。ジュエラーのTASAKIである。TASAKIは2008年に投資ファンドのMBKパートナーズが大株主となり、以来ブランド再生に取り組んできた。近年は、時計やバッグなど領域にカテゴリーを拡大し、ロンドンにもグローバル基幹店を設け、本気でラグジュアリーブランドとしてのグローバル化を試みている。

クリエイティブディレクターには著名な外国人デザイナーを起用する一方、経営としっかり役割分担することで、ビジネスモデルとしてのラグジュアリーマネジメントが実践できている。そして、ブランドのルーツは真珠であり、世界一の真珠の生産国だった日本から生まれたという正統性もある。MBOでは色々な議論があったものの、今後TASAKIがラグジュアリーメゾンとしてどこまでグローバルで成長できるか、日本人として温かく見守っていきたい。

文=福田 稔

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