だが、実際には交渉の場面で、こうした考え方を裏付ける証拠はない。むしろ男女に関わらず、力の低いマネージャーは交渉相手をなだめることを試み、優しく説得しようと努める傾向が見られる。つまり、「交渉そのもの」には性差はないのだ。
しかし、「交渉結果」になると話は違う。「女性にとっては、数100ドルの昇級や立派なオフィスよりも、対人関係を築き、そうした関係を維持していくことの方が重要である可能性がある」(A.F,Stuhlmacher and A.E,Walters)。女性は結果として関係性を重視するが、男性は物質的な結果を重視する傾向があると見られ、そのため「交渉結果」としては、女性の方が得られる利得が少なくなっているのではないかと考えられている。
しかし、女性の皆さん、落胆することはない。確かに「交渉結果」としては女性の方が得られる利得が少ないが、しかし一方で、男性は交渉後に人間関係が壊れるケースが多いのに対し、女性は交渉後も長期的な人間関係を維持することができると報告されている。
物質的な結果(利得)も重要だが、女性は、交渉という一場面で人間関係を破壊したりはしないのだ。つまり、交渉という一過性の断片的な側面ではなく、長期的視点に立てば、女性の方が力を持つ可能性を示していると言えるのではないだろうか。
先人の多くの女性の努力の結果、諸外国ほどではないものの、日本でも意思決定ポジションへの女性の登用は増えている。女性活躍推進法も施行された。元気な女性が長期的な人間関係を構築しながら、社会の最前線で活躍する社会は、もうすでに始まっている。
ちなみに、余談だが、最初に引用した暴言を吐いた男性議員たちは、現在、全員が議席を失っている。
林 久美子の「組織行動学から読み解く」
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